趣味は引用
その44 ― ピンチョン Lot 49
競売ナンバー49の叫び

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 物事のつじつまが妙に合っている、合いすぎている、というのがエディパの気にかかることだった。それで彼女は、周囲で啓示が進行しているように感じる。
 啓示(revelation)が進行中、というのもよくわからないが、陰謀が動いているのをこちらに気付かせるヒントがちらつく、といったことだろうか。そして、それらの啓示の多くは、ピアスの切手コレクションを通してやってきたという。

 ピアスは切手の収集マニアだった。
 何千という小さな図柄は愛人だったエディパの代用ともなり、ピアスは彼女のことさえ忘れてその世界に没入することができた。そこまで魅了されてしまうものなのか、エディパにはその情熱が理解できなかった。いまや遺言の執行人にされてしまった彼女にとって、遺された膨大な数の切手は、すべて目録に整理して1枚1枚評価額を調べる必要がある頭痛の種に過ぎない。
Yet if she hadn't been set up or sensitized, first by her peculiar seduction, then by the other, almost offhand things, what after all could the mute stamps have told her [・・・] (pp31-2)

《しかし、まずあの奇妙な情事によって、さらには、ほかの、ほとんど偶然の出来事によって、彼女の受け入れ態勢が整うというか、感度強化がおこなわれているというか、そういうことがなければ、何と言ったって物言わぬこの切手たちに何が語れたと言えるだろう?》p52/58

 不自然なくらい論理的に整合する出来事にぶつかり、「裏に陰謀があるのではないか」と疑いの目で物事を見るようになる。それが“感度の強化された状態”(sensitized)だとすると、はたから見たとき、いまひとつ被害妄想と区別がつかない。

 感度強化のきっかけのひとつはムーチョの手紙だった――というのに事寄せて、エディパとムーチョのマース夫妻のありようが挿入される。
 サン・ナルシソへ出発して以来、エディパは義務的に週に2回、手紙を出していた。メツガーとの不倫は伝えていないが、それは、伝えなくてもなぜだかムーチョには通じているのではないか、と感じたからだという。
 ムーチョはムーチョで以前から10代の女の子に執着があり、何人かと法に触れかねない関係をもったのをエディパは知っている。ただし、どうするつもりなのか問うことまではできないでいる。行き詰まりになるのがこわい、ということからくる自主規制こそが夫婦間ではたらく道徳であるらしい。

 エディパの泊まっているモーテルに届いたムーチョからの手紙には、特に内容のあることは書かれていなかった。しかし彼女は直観で、中身ではなく封筒に変わった点があるといきなり気付く。

…続き
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