趣味は引用
カルヴィーノ先生
冬の夜ひとりの旅人が
 きのうも今日もあしたにも欲しい本はどんどん出版されているというのに新刊を追いかける体力のない自分がうらめしく、「だけどこれまでに読んだいいものを再読する方がむしろ意義があったりするんじゃないのかな、ホラここにもこんな小説が」とかいって部屋の本棚から取り出したカルヴィーノ『冬の夜ひとりの旅人が』(脇功訳、ちくま文庫)をめくり、ほんの数ページでうちのめされる。
《出版されたばかりの本があなたに与える楽しみというのは、格別なものだ。それは一冊の本があなたの手にあるということだけでなく、今しがた工場から出荷された品物のみがもつものでもあるその新しさ、蔵書にたちまち訪れる容色の衰えの中で、表紙が黄ばみ、本の切り口にスモッグのヴェールが沈殿し、本の背が角のところですり切れるまでは続く、本にもまた備わった若さの美をも手にしているのだ。(…)
 たぶんあなたは本屋でもその本をめくり始めたことだろう。それともセロファン紙の繭にくるまれているのでそうできなかったのですか? 今あなたはバスの中で、人混みにもまれて、立ったまま、片手で吊り革を握り、あいた方の手で本の包みを開けようとしている、いささか猿みたいなしぐさだ、片手で木の枝につかまり、もう一方の手でバナナの皮を剥こうとしている猿みたいだ。肘が隣の人をこずいていますよ、せめてごめんなさいとぐらいは言いなさい。》P14
 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
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