2003年の穂村弘
去年の夏、青土社の「ユリイカ」は8月号で黒田硫黄を特集し、9月の増刊として「川上弘美読本」を出した。
穂村弘はその両方に呼ばれ、二人と対談している(正確には、黒田の時はアシスタントもまぜた鼎談)。どちらもかなりの分量だが、穂村弘の話題は一貫していた。
黒田硫黄を読む自分
川上弘美を読む自分
結果、「どっちを読んでも、穂村の話はほぼ同じ」ということになる。だれの特集か。
しかしそのおかげで「黒田硫黄」「川上弘美」が裏から浮かんでくるのは怪我の功名かもしれないし、そこが編集者のねらいだったのかもしれないし、あるいはこちらの錯覚なのかもしれない。
穂村 一世代前の、ちょうど僕くらいの年のオタクは、俺がこんなに現実に入れないのはミュータントであるからに違いないとか思うわけです(…)そういう人間が黒田硫黄を読むとショックを受ける。ミュータント度でも負け、現実順応度でも負けたら、あとどこで勝負すればいいのかと。
穂村 そいつら(註・中年のサラリーマンたち)がウェイトレスに、なかなか注文がこないと文句を言ってて、「昨日から待ってるぞ」なんて言うわけ。ださい!と思うんだけど、でも、そのだささのなかにも一抹のピュアさがあって、その人間としてのトータルな存在感が俺を傷付けるんだよね。(…)
黒田 そういう話を聞くと、俺はまったく外界に興味がないなあと思いますね。
穂村 いくつかのやる気と運が重なれば、夢の一体感、永遠の愛が君にも手に入る!というメッセージを受け取るよね。
川上 永遠の愛はないよ。夢の一体感はあるよね。でも、それは普通に恋愛すれば十分あることじゃない?
穂村 すごく短いスパンではそうだけど、あとで恋人の携帯の着信履歴をこっそり覗いたらとんでもなかったとか、死んだあとメールの履歴を見たらぐちゃぐちゃだったとかいろいろ出てくるから(笑)。
川上 そんなの当たり前のことじゃない(笑)。
穂村 当たり前なんだけど、当たり前でありたくないじゃない(笑)。
川上 そんなの無理。なんか穂村君は人間を信じているよね(笑)。万能なものが世の中にはあると思ってない?
穂村 万能かどうかはともかく最高のものはどこかにあるとは思っているよ。
川上 そんなものはないよ(笑)。
ぐったり疲れてまいりました。
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