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2004/04/03

その32 ― ピンチョン Lot 49

競売ナンバー49の叫び

前回…] [目次

She shut the door behind her and took the occasion to blunder, almost absently, into another slip and skirt, as well as a long-leg girdle and a couple pairs of knee socks. It struck her that if the sun ever came up Metzger would disappear. She wasn't sure if she wanted him to. (p29)

《背後のドアを閉めて、まごつきながら、ほとんど無意識のうちに、もう一枚スリップとスカートと、それに長い、太腿まで入るガードルと膝まで来るソックスを二足、身につけた。日がのぼったらメツガーは姿を消してしまうんだと、ふと思った。それを望んでいるのかどうか、わからなかった。》p47/p54

 ゲームに勝つためにエディパはさらに服を着こんだ。しかし彼女の気持は逆の方向に動きはじめている。部屋に戻るとメツガーは下着姿で眠っていた。
With a cry Oedipa rushed to him, fell on him, began kissing him to wake him up. His radiant eyes flew open, pierced her, as if she could feel the sharpness somewhere vague between her breasts. She sank with an enormous sigh that carried all rigidity like a mythical fluid from her, down next to him[…] (p29)

《叫び声をあげてエディパは彼に突進し、その上に倒れ、キスをして彼の目を覚まそうとかかった。メツガーの輝く目がぱっと開いて彼女を突き刺した。何となく乳房のあいだが、どこか、きりきり痛む思いだった。大きな溜息をついてくずれおれると、ぎごちなく硬いものがみな神秘な液体か何かになって流れ去ったように、彼のわきに横たわった。》p48/p54
太字は引用者

 メツガーの視線に突き刺され、それまでこの男に対して抱いていた警戒心やら何やらが心の中からすべて出て行ってしまうさまを描くのに、上で太字にした部分はとてもうまいと思ったのだが、なんだか野暮な感想である(ちなみにテレビの映画では、敵味方の兵士たちが視線どころか銃剣を突いたり刺したりして戦っていた。あからさまといえばえらくあからさまだ)。
 メツガーは何十枚にもなるエディパの服を脱がせにかかる。

…続き

追記:
 ここで「とてもうまい」と書いた引用部分は、佐藤良明訳『競売ナンバー49の叫び』(新潮社、2011)ではいっそううまい。うまいというか、ただもう、すごい。
《エディパも雄叫びを上げて突撃をかけた。彼の上に飛び乗ってキスをすると、目覚めたメツガーのギラリとした視線が飛び出て、彼女を貫いた。両胸のあいだのどこかに、その鋭さがチクリと刺して、彼女が大きく息を吐くと、それと一緒に体の中から、今まで堅く守ってきたすべてが溶け出し、神話の世界か何かのように流れ出して、彼女はぐにゃりと、メツガーの脇に倒れ込んだ。》p50

《その鋭さがチクリと刺して》とか、《彼女はぐにゃりと》といった、言葉を補って訳しているように見える部分が、原文と訳文を何度も読み比べると「たしかにそう書いてある」と納得できるところまで読者を連れて行ってくれる。エディパじゃないけど大きなため息が出てしまう。もうどうにでもしてほしい
 こういった、原文より一歩踏み込みすぎているようでじつはしっかり踏みとどまっている訳文の確かさについて、2011年に『V.』の新訳(小山太一+佐藤良明訳)が出たときにこういう文章を書いた。→「モンダウゲンと巻きひげの話」

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