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ヴィクトル・ペレーヴィン『チャパーエフと空虚』(1996)
チャパーエフと空虚
三浦岳訳、群像社(2007)

《「本当のところ、何が本当かわからないぐらいです。いま揺られている馬車が本物なのか、それとも毎晩白衣の悪魔に苛まれるタイル貼りの地獄が現実なのか」
「本当のところ、何が本当なのか」とチャパーエフはくりかえして、また目を閉じた。「おまえがこの問いの答を理解することはあるまい。本当のところ、どんな『本当のところ』も存在しないのだから」
「どういうことです?」
「やれやれ、ピョートル・・・・・・。昔、中国に荘子という同志がいたんだ。彼にはよく見る夢があった。自分が草原を舞う蝶になる夢だ。だがそいつは目が覚めても、これは蝶が革命に従事する夢を見ているのか、それとも地下活動家が花から花に飛ぶ夢を見ているのか、よくわからなかった。だからこの荘子は、モンゴルでサボタージュのかどで逮捕された際、尋問に対して、自分はこの世界を夢に見ている蝶だと答えた。尋問をしたのはユンゲルン伯爵だった。伯爵には理解の深いところがあったから、ではなぜその蝶は共産党を支持しているのかと訊いてやった。彼は、その蝶はべつに共産党を支持してなどいないと答えた。今度は、ではなぜその蝶は破壊活動に従事しているのかと訊いた。すると荘子はこう答えた、人の業[わざ]などなべて曖昧なもので、何をするかなどにたいした意味はない」
「それで、どうなったんです、彼は?」
「壁の前に立たせて、しかるべき現実的な手段で目を覚ましてやったそうだ」
「つまり、彼は?」
 チャパーエフは肩をすくめた。
「飛んでったんじゃないか?」
「なるほど、ワシーリイ・イワーノヴィチ。なるほど・・・・・・」僕は考えこみながら言った。》pp276-7
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