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その101 ― ピンチョン Lot 49
The Crying of Lot 49 (Perennial Classics)

前回…] [目次

next day she drove out to Vesperhaven House, a home for senior citizens that Inverarity had put up around the time Yoyodyne came to San Narciso. In its front recreation room she found sunlight coming in it seemed through every window; (p72)

《次の日〈ヴェスパーヘイヴン養老院〉へ車で出かけた。この老人ホームはヨーヨーダイン社がサン・ナルシソ市に進出してきたころ、インヴェラリティが建てたものである。》p111/p125

 前回の引用部分から、改行もなく次の手掛かりへなだれ込む(本当はストップをかけたいがあとにしよう)。
 In its front recreation room she found sunlight coming in it seemed through every window; an old man nodding in front of a dim Leon Schlesinger cartoon show on the tube;

《建物の正面にある娯楽室に入ると、窓という窓から日の光が射し込んでいるように思われた。一人の老人が不鮮明なレオン・シュレジンガー漫画を放映しているテレビの前で居眠りしている。》

 この老人はトート氏(Mr Thoth)といって、まどろみから覚め切らない頭でエディパを相手に話をしてくれる。すごいことに、エディパは養老院に出向いただけで、手掛かりのほうから彼女のところにやって来るのである。
 すでにじゅうぶん年を取ったトート氏の話は、さらに時をさかのぼる、彼の祖父のことだった。
"[…] Oh, the stories that old man would tell. He rode for the Pony Express, back in the gold rush days. His horse was named Adolf, I remember that" (p73)

《「[…] いやあ、この爺さんが聞かせてくれる話ときたら。爺さんは小馬速達便[ポニー・エクスプレス]の配達夫じゃった。ゴールド・ラッシュのころのことじゃよ。爺さんの乗っておった馬の名前はアドルフというた。いまでもその名前は覚えておるんじゃ。」》p112/p126

 小馬速達便。また郵便だ。ここで読者の感じる「!」を、次の行でエディパはそのまま引き受ける。両者の気持はぴったり重なり、その彼女の感覚は、「その93」で見た“感度強化"(sensitized)という言葉で説明されている。
 Oedipa, sensitized, thinking of the bronze marker, smiled at him as granddaughterly as she knew how and asked, "Did he ever have to fight off desperados?"
 "That cruel old man," said Mr Thoth, "was an Indian killer. God, the saliva would come out in a string from his lip whenever he told about killing the Indians. He must have loved that part of it."

《エディパは感度が強化された状態で、青銅の記念碑のことを思い出しながら、できるかぎり孫娘ふうにほほえみかけ、「命知らずの悪者を退治するなんてことはなかったの?」
「むごい爺さんでのう」とトート氏は言った――「インディアン殺しじゃった。いやあ、インディアンたちを殺した話になると決まって口からよだれを流しおってのう。そこのところを話すのが、こたえられんかったんじゃ」》*太字は引用者

 念のため、《青銅の記念碑》は「その98」で見つけた史碑のことで、1853年に〈ウェルズ、ファーゴ社〉の郵便配達人が黒衣の集団に襲われて死んだ史実を伝えていたのだった。
 いま、また別の郵便組織・〈小馬配達便〉が登場し、そこで働いていた人間(トート氏の祖父)はインディアンだけでなく別のものとも戦った――というふうに話が続いていくのだが、それは次回にするとして、ここでは、上で引用していなかったトート氏の味わい深い台詞を訳文だけ書き写しておきたい。
《「こんにちは」とエディパは言った。
「夢を見ていたのかいな」とトート氏はエディパに言った――「わしの爺さんの夢じゃ。えらく年を取った爺さんでのう、少なく見積ってもいまのわしくらい、九十一じゃが、そのくらいにはなっておった。わしは子どものころ、爺さんは生まれたときから九十一歳だったんやと思っとった。このごろは、わしが」と笑い声を出して「生まれたときからずっと九十一歳だったような気がしとるよ」》

 Lot 49 を書いているとき、ピンチョンはまだ20代のはずだが、どうしてこんな台詞が書けたのかと読み返すたびに思う。

…続き
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