趣味は引用
大森望・豊崎由美『文学賞メッタ斬り!』(2004)
文学賞メッタ斬り!
PARCO出版

 そうそう、おれも読んだんだよ。
大森 (…)著者は十七歳の男子高校生。確かに文章は全然うまくないし、幼いんだけど、思いきり陰湿な兄弟喧嘩の描写には異様なリアリティがある。どっちが正しいかを判定して最終的に勝ち負けを決めるのが母親だったりするのは、なかなか大人の作家には書けない(笑)。》P62
豊崎 でも、受賞作リスト見てると、パッとしない賞ですよねえ。さっきから語るきっかけが見出せなくて(笑)。》P160
 7年か8年前、「リテレール」誌上でその年のベストセラーを読んでみるという企画があり、石原慎太郎(たしか『弟』)の文章をけちょんけちょんにけなしていたライター。自分が豊崎由美を知ったのはおそらくそれが最初。
 文芸誌なんて手に入らない僻地(「リテレール」があったのが奇跡)で生きていたその頃から、新聞の芥川賞発表記事で「選考委員のうち日野啓三氏は病気で欠席」というのを読むたびに、またかよ、なんで辞めないんだろうと不思議に思っていたり、今に至るも「文學界」新人賞の受賞作を読み通せたことは一度もないくせに選評の浅田-奥泉-島田-山田ラインはにぎやかで面白いから(とりわけ山田)毎回チェックしていたり、三島賞にことよせて筒井は同じ選考委員の石原慎太郎を敬して遠ざけているのか茶化しているのか勘繰ってみたり、そういう人間である自分にとって、この『メッタ斬り!』は予想通りたいそうおもしろかった。
 魅惑の北方ボイス「ケンゾー、です」とか、「死者は八人まで」とか、自分のことだけは予想できない角川春樹とか、印象的なエピソードが多々。文学賞は選考委員の値打ちを測るものさしでもあった。「宮本輝に誉められなかっただけでもこの作品は価値がある」なんて物言いが通用してしまう選考委員が他にいるだろうか――って、たくさんいるらしい、とこの本を読むと思えてしまう。なにしろすべては他人事だ。
 両者(間違いなく両者)の口から発される毒舌がすがすがしいのは、文学賞をめぐるあれこれを語りながら、二人とも自分がどれほど小説が好きかを思わず知らず熱く主張してしまっているからだろう。これは、小説を読みたい人のための小説賞案内である。なにしろ、巻末に付いているのは各賞の受賞作一覧ではなく、より実用的なぶんより手間がかかるブックガイドなのである。労作らしい労作。
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