2004/04/07

その98 ― ピンチョン Lot 49

The Crying of Lot 49 (Perennial Classics)

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 次々にあたらしい事実が見つかる。
その57」で行ったファンゴーソ礁湖を再訪すると、湖の向こう岸に青銅の史碑が立っていた。こんな文が彫ってある。
On this site, it read, in 1853, a dozen Wells, Fargo men battled gallantly with a band of masked marauders in mysterious black uniforms. We owe this description to a post rider, the only witness to the massacre, who died shortly after. The only other clue was a cross, traced by one of the victims in the dust. To this day the identities of the slayers remain shrouded in mystery. (p71)

《「この地に於いて一八五三年ウェルズ、ファーゴ社の郵便配達人十二名は謎の黒衣の制服の覆面強盗団と勇敢に闘へり。斯く言ふはこの虐殺事件の唯一の目撃者たりし騎馬郵便配達人の言に依りてなれど、此の配達人、時を経ずして死せり。他に手掛かりとては、被害者の一人が地面に残せし十字の印のみ。今日に至るも虐殺人らが正体は杳として不明なり」》pp109-10/p123

ウェルズ、ファーゴ〉社は、1852年、ゴールドラッシュのアメリカ西部で作られた運送会社である。設立の翌年、その郵便配達人を黒衣の集団が襲ったという。
 地面に残された「十字の印」を、エディパは『急使の悲劇』で見た、ニコロ最期の台詞「T・t・t・t・t・・・・・・」ではないかと疑っている。ニコロも、郵便配達〈テュルーン、タクシス〉の格好をして、黒衣の集団に襲われ殺されたのだった→その75
 演出家ドリブレットに、この事件を知っていたのか確かめようと電話をかけるがつかまらない。そこでエディパは、彼が台本のもとになった本を見つけたと言っていた古本屋→その83に行ってみる。
 その古本屋、ザップフ古書店には、めあての『ジェイムズ朝復讐劇集』がちゃんとあって彼女を待っていた。
 "It's been very much in demand," Zapf told her. The skull on the cover watched them, through the dim light.
 Did he only mean Driblette? She opened her mouth to ask, but didn't. It was to be the first of many demurs.

《「ずいぶんと需要がありましてね」とザップフは彼女に言った。表紙に印刷された頭蓋骨が、薄暗い光のなかで彼らを見つめていた。このひとはドリブレットのことだけを言っているのかしら? 口を開いて、そうきこうとして、やめた。それは、これから経験することになる、数多くのためらいの最初のものであった。》p110/p124

 ものすごいことを言っている。ドリブレットに「電話する」とか古本屋まで「足を運ぶ」のと、店主への「質問をやめる」のは、正反対の行動だ。探求を始め、手掛かりらしきものを集めている最中に、エディパは「ためらい」も始めるのである。
(これはさっきの「その83」で、ドリブレットからはじめてこの古本屋のことを聞いたときにも、「私をかついでいるんじゃない?」と強い疑いにとらえられたのと似た反応だ)

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