2004/04/07

その97 ― ピンチョン Lot 49

競売ナンバー49の叫び (ちくま文庫)

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She'd decided to come tonight to The Scope not only because of the encounter with Stanley Koteks, but also because of other revelations; because it seemed that a pattern was beginning to emerge, having to do with the mail and how it was delivered. (p71)

《エディパが今晩〈ザ・スコープ〉へ来ることにしたのは、スタンレー・コーテックスに会ったからというだけではなく、ほかにもいくつかの啓示があったからだ。つまり一つのパターンが出現しはじめ、それが郵便物と、その配達方法にかかわっているらしいのである。》p109

 ここから急にLot 49 は加速する、のだが、その前にちょっとぐずぐずしておきたい。
 このような文章の運びであれば、エディパがコーテックスと会って話す → その後、ほかにも複数の啓示があって「一つのパターン」が出現したと感じられる → だから〈ザ・スコープ〉へ来ることにした、という順番になるはずだ。
 ファローピアンと話す前に啓示があった。ここに疑問の余地はないと思う。それなのに、続きを読んでいくと、どうもそうなっているようには見えない、という細かい抗議である。

《一つのパターンが出現しはじめ》る、とは、似た背景を持っているように感じられる事象がいくつもあらわれるということだろう。たしかにこれから続々と、《郵便物と、その配達方法にかかわっているらしい》事物が並べられていくことになる。
 でもそれらは、エディパがこの夜、ファローピアンと話したあとで次々に出遭うもののように書かれているのだ。次回から実地に見ていくけれども、そう受け取るほうが自然に見える、と、いま先に書いてみた。
 だとすると、上に引用した部分で地の文は、エディパがこれから実際にすすめる行動をあらかじめ整理して述べておくにあたり、先走って、そこに啓示のしるしを書き込んでしまったことになる。

 啓示のしるし、とは勿体ぶった言い方だったが、要は、具体的な出来事を並べるまえに「啓示」(revelation)という文字を先に出してしまったということで、これをまず脳内にスタンプされてから続きを読む読者は、このあと列挙される事物のあいだに、エディパと同様、「一つのパターン」を見出してしまう方向に読み方が誘導される。「啓示」という言葉が、読者を主人公に重ね合わせる役割を果たすのだ。
 その先取りのために小説の時系列に小さな混乱が生じていると見えるのだが、それはこのあとの急展開によって押し流されるようになっている。

 ただし、「啓示」という意味ありげな一語に思い切り寄りかかり、引用部の何気ない一節から懸命に意味を汲み出そうとしてしまうのは、大いに偏った姿勢ではある。実際に続きを読めばわかるように、ここで「ほかにもいくつかの revelations があった」というときの revelation は、むしろ「意外な発見」「新事実」くらいの意味で通用するはずのものだ。
 だが、さらにもういちど考え直すと、これまでも要所要所で連発されてきた revelation という言葉が、この小説に宗教的な気配をまとわせる鍵言葉となっている事実をここでだけ忘れたふりをするわけにもいかない。

 やはり revelation には、すでに大きな意味が込められてしまっている。そこに乗っかって、今後の展開が持つ意味を強引に予示するのが今回の引用部分であるだろう。
 つまり、この小説が revelation のほうへ大いに偏っている。

…続き

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