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2004/04/07

その78 ― ピンチョン Lot 49

競売ナンバー49の叫び

前回…] [目次
 No hallowed skein of stars can ward, I trow,
 Who's once been set his tryst with Trystero.

Trystero. The word hung in the air as the act ended and all lights were for a moment cut; hung in the dark to puzzle Oedipa Maas, but not yet to exert the power over her it was to. (p58)

いかに聖なる星の桛といえども護れない――
 ひとたびトライステロとの出会いを定められた者の運命は

 トライステロ。その言葉は第四幕が終わり、すべての照明が一瞬消えたそのとき、宙に漂った。暗闇に漂ってエディパ・マースを当惑させたが、まだ後日にいたって発揮するほどの力をふるいはしなかった。》p90/p101

 ここでエディパははじめて「トライステロ」という言葉を聞いた。ただしLot 49 でこの語は初登場ではない。
 だってそもそもこの第3章は、冒頭でいきなりこの「トライステロ」という名前を作中に投げ入れて先の展開を強引に予告してしまい、まるで地の文というものの特権をひけらかすようにして小説に方向付けを与えていたのである。
 その力業については「その41」からしばらく書いた。あれは何度読んでも破格の冒頭だと思う。そのときの引用部分だけもういちど。
《Things then did not delay in turning curious. If one object behind her discovery of what she was to label the Tristero System or often only The Tristero (as if it might be something's secret title) were to bring to an end her encapsulation in her tower, then that night's infidelity with Metzger would logically be the starting point for it; logically. (p31)

《それ以後、事態は遅滞なく奇妙な方向へと発展することになった。エディパが〈トライステロ・システム〉あるいは、しばしば単に〈ザ・トライステロ〉と(まるで何かの秘密の暗号であるかのように)呼ぶようになるものを発見した背後に一つの目的があって、それが彼女の塔に幽閉されている状態に終止符を打つことであると想定するならば、あの夜のメツガーとの不倫こそ論理的にはその出発点になると言えよう――論理的には。》p51/p57

 第3章の始まりで押しつけられた「トライステロ」なる言葉を、読者はずっと気にしながら(それは何?)ページをめくっていくことになっていたわけだが、そうやって読み進める小説の主人公であるエディパその人がこの名前に出遭うのは、章の冒頭から27ページもあとになる、と「その43」で書いた。
 それが今回のあたま、『急使の悲劇』のラスト近くで、ジェンナーロという役名の人物がその「トライステロ」なる語を含んだ台詞を発するシーンのことだったのである。
 やっとだよ、というのが率直な感想だが、主人公がここではじめてこの言葉を知った、ということには何度でもおどろいておく意味があると思う。

 Lot 49 というこの小説の地の文は、エディパに寄り沿い探求を実況中継するようなそぶりを見せながら、時おり、このような抜け駆けを行うことで、“この地の文は、つまり小説は、登場人物より多くのことを知っている”という知識の差、越えられない壁を強調するのである。
 あるいは、こうもまとめられるか―― 登場人物は、地の文を読めない。

…続き

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