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その74 ― ピンチョン Lot 49
The Crying of Lot 49 (Perennial Classics)

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『急使の悲劇』あらすじの続き。

 場面はニコロにとっての敵(スカムリア)の宮廷から、味方の側(ファッジオ)に移っている。
 Back to Gennaro and his army. A spy arrives from Squamuglia to tell them Niccolo's on the way. Great rejoicing, in the midst of which Gennalo, who seldom converses, only orates, begs everybody remember that Niccolo is still riding under the Thurn and Taxis colors. The cheering stops. Again, as in Angelo's court, the curious chill creeps in. Everyone onstage (having clearly been directed to do so) becomes aware of a possibility. (p56)

《場面はジェンナーロとその軍隊に戻る。スカムリアからスパイが到着し、ニコロがこちらに向かっていると言う。大歓声が湧き起こるが、そのただなかで、演説する以外はめったに口を開くことのないジェンナーロが、ニコロはいまもテュルーン、タクシス家の旗のもとに駆けているのを忘れないようにと懇願する。歓声がやむ。ふたたびアンジェロの宮廷シーンのように奇妙な冷気が忍びこんでくる。舞台の全員が(あきらかにそのむね監督の指示を受けて)ある可能性を意識しはじめている。》p87/pp97-8

《ニコロはいまもテュルーン、タクシス家の旗のもとに駆けているのを忘れないようにと懇願する。歓声がやむ。》
 どうやら、ニコロの正体が相手にばれていることよりも、彼が大手郵便「テュルーン、タクシス」の格好に身を包んでいることのほうが危険であるらしい。
 つまり、騙されていたことに気付いて復讐に燃えるアンジェロは、「じつはファッジオの王子だった、あのニコロという男を殺せ」ではなく、「あのテュルーン、タクシスの郵便配達人であるニコロを殺せ」という命令を発したのじゃないかと考えられる。
「テュルーン、タクシス家」の敵、なる存在がいる。それが《舞台の全員が[…] ある可能性を意識しはじめている。》という一文で全員の意識にのぼった「可能性」ではないか。

 このへんから、芝居の進行はスピードを増す。あるいは“小説の地の文でなされる、芝居のあらすじ紹介“のスピードが増す、ということかもしれないが、読者にとって、このふたつは同じものだったと繰り返し書いておこう。
 まず、アンジェロの宮廷に仕えながら、これまでたびたび策略を駆使してニコロを助けていた、裏切り者のエルコーレが殺される。
 そしてその次は、ニコロも殺されると書いてある。

…続き
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