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その73 ― ピンチョン Lot 49
競売ナンバー49の叫び (ちくま文庫)

前回…] [目次


『急使の悲劇』あらすじの続き。
《公爵はわれわれに何も教えてくれない、あるいは教えてはいけないことになっているのだろう。ヴィットリオにどなり散らす言葉は、だれがニコロの跡を追って行かないかについては明白だ。自分の用心棒たちのことを面と向かって、くず、のろま、卑怯者とこきおろすのだから。しかし、それではだれが追って行くのか? ヴィットリオにはわかっている。宮廷の使用人たちはみなスカムリアの制服を着て歩きまわりながら〈意味をこめたまなざし〉を交わし、わかっているのだ。まったく大仕掛けの、内輪の冗談のようなもの。この時代の観客にはわかっていたのだ。アンジェロは知っている。が、言わない。近いところまでは言っても、明らかにはならない――》

 誰がニコロを追うのか、明言はされない。ニコロを追う組織の名前は出てこない。しかし、舞台上の人間は全員「わかっている」ことになっているし、当時の観客だって「わかっている」ことを当て込んでこの芝居は書かれている―― 平たく言えばそういうことだ。
 知りたい人間(現代の観客・エディパはここに含まれる)には知らされず、全体が《まったく大仕掛けの、内輪の冗談のようなもの》になっている。ここもおぼえておきたい。
 ではさて、だれがどうやってニコロを追うのか。

・アンジェロの部下の郵便部門
・大手郵便「テュルーン、タクシス」

 このどちらでもない組織が、確かにあるはずなのだ。上述のように、劇中でははっきり語られないので、実際に発されたアンジェロの台詞からヒントを読み取っていくしかない。
《 あの覆面をつけたまま彼を墓に送ろう
 名誉ある名を簒奪しようとして果たせなかった者
 われらは彼の仮面劇を踊ろう、それが真実であるかのように
 遅滞なき復讐を誓って眠ることなき者どもの
 すばやい短剣をあつめよう
 心やさしきニコロが盗んだ名前のかすかなささやきを耳にして
 一瞬たりともひるむことのないように、恐ろしい、卑劣な
 言語に絶する破滅をもたらすために・・・・・・

《あの覆面をつけたまま彼を墓に送ろう》というのは、「テュルーン、タクシス」の郵便配達員に変装していたニコロを、その覆面をかぶったまま殺してやろう、という意味だろう。ただしアンジェロが直接、手を下すのではない。
 4行め、《遅滞なき復讐を誓って眠ることなき者ども》というのが、だれも名前を口にしない、いわば暗殺者集団のことであるはずだ。
 次の部分にもヒントは続く。

…続き
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