2004/04/06

その69 ― ピンチョン Lot 49

競売ナンバー49の叫び

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『急使の悲劇』あらすじの続き。

 事態はアンジェロにとって、まったく望ましくない方向に動いている。殺したつもりだったニコロは、どこかで生きているのかもしれない。ジェンナーロに率いられたファッジオ側が攻めてくるかもしれない(加えて、半分たわむれに枢機卿を虐殺したのが法王にばれてしまったかもしれない)。
 そこでアンジェロは、まずジェンナーロを押しとどめるため手紙を書く。これまではなぜか外部の郵便組織を嫌い、通信は自分の部下に任せていたが、一刻も早くこちら側から和平を提案しなくてはならないこの重大事にあたり、もはや部下を当てにはできず、彼はとうとうヨーロッパ最大手の私設郵便〈テュルーン、タクシス〉(the Thurn and Taxis)の急使を呼びつけて手紙を託す。
 その急使がじつはニコロであることにアンジェロはもちろん気付いておらず、ニコロはニコロで、にわかに緊迫してきたファッジオ-スカムリア状勢も、アンジェロから預かって自分の懐に入れた手紙の内容もわかっていない。ただ与えられた業務として、ニコロは故国へ向かい馬を走らせる。
 盛り上がってきたところだが、問題の手紙を執筆中のアンジェロは、使っているインクについて謎めいた台詞をいくつも述べていたという。

「インクはフランス語で“アンカー”というが、われわれも“アンカー”(錨)を無限の淵から引き揚げた」
「このインクは、白鳥(羽ペン)でもヒツジ(羊皮紙)でもない獣から集めたものだ」

 云々。これもまた伏線らしい伏線である。
 
 さて、ニコロがスカムリアの宮廷を出た直後、アンジェロの忠実な部下ヴィットリオがやってきて、「あいつには、反逆の気配があります」と告げる。さらに、エルコーレに殺されていたドメニコ→その66のダイイングメッセージが発見されて、観客にははじめからわかっていたニコロの正体が、ようやく舞台の上でも暴かれる。
Angelo flies into an apoplectic rage, and orders Niccolo's pursuit and destruction. But not by his own men. (p55)

《アンジェロは癲癇の発作を起こしたように怒り、ニコロを追って殺せと命じる。ただし彼の部下が手を下すのではない。》p85/p96

 いよいよ不穏なことになってきた。

…続き

*「その65」でも書いたが、ヨーロッパ最大の郵便組織だった「テュルーン、タクシス」(the Thurn and Taxis)家は実在するものなので、当然Wikipediaにも項目がある

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