2004/04/06

その68 ― ピンチョン Lot 49

The Crying of Lot 49 (Perennial Classics)

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 ファッジオとスカムリアという2国の政争をめぐる『急使の悲劇』(リチャード・ウォーフィンガー作)のあらすじの続き。

 死んだと思われているファッジオの王子、という身分を隠して隣国スカムリアにいるニコロは、〈消えた近衛兵〉の話を聞く。かつて、自分の父(善人公爵)が暗殺される直前、ファッジオの精鋭部隊およそ50名が、国境近くで演習中にまるごと姿を消したという。当然、スカムリアの悪人公爵アンジェロがあやしい。
(この噂をニコロに伝えたのはヴィットリオという男で、アンジェロの郵便を受けもつ急使の1人だった。話を聞いて思わず「アンジェロの野郎・・・!」と口走ったニコロの様子から反逆のきざしを読み取っている。これも大事な伏線)

 策士エルコーレは暗躍を続け、アンジェロの甥であり、いまファッジオを乗っ取るために摂政をしているパスカーレをうまく騙して拷問・虐殺するのに成功。ここでファッジオ側にはジェンナーロというすぐれた人物が現れて、正統な王位継承者ニコロが帰ってくるまで、この国の政権をつかさどることになる。
 この合間にも露悪的なシーンが多く、休憩時間にはエディパもメツガーも幾分ぐったり気味である。しかし、そこで奇妙な不意打ちが起きる。
Oedipa headed for the ladies' room. She looked idly around for the symbol she'd seen the other night in The Scope, but all the walls, surprisingly, were blank. She could not say why, exactly, but felt threatened by this absence of even the marginal try at communication latrines are known for. (p53)

《エディパは婦人用化粧室へ向かった。彼女はぼんやりあたりを見まわして、先夜〈ザ・スコープ〉で見た印はないかと思ったが、驚いたことに、どの壁もブランクだった。なぜだか正確にはわからなかったが、便所はコミュニケーションの場として知られるのに、コミュニケーションの周縁的な試みさえ不在なのに威嚇を感じた。》p83/p93

 どこから突っ込んでいいのか迷うくらいに、すべてが間違っている。
「驚いたことに」「威嚇を感じた」。メッセージがないことさえ、ひとつのメッセージとしてエディパには届いている。そんなふうに受け取ってしまうまでに彼女の感覚は鋭敏さを増している。
 増しすぎた鋭敏さは狂気と区別がつかないと思うのだが、小説はまだその言葉は使わない。

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