趣味は引用
その2 /10月2日(土)  上巻P72-182
逆光〈上〉 (トマス・ピンチョン全小説)

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■ 上巻p182で第一部が終わった。これで全体の1/10程度だから先は長い。だけどここまででも与太話に次ぐ与太話が繰り出され、あっちこっちむやみに面白い。文章は圧縮されてるのに題材の選びかたはひどくユルくて(=何でもあり)げらげら笑う箇所多数。

■ 飛行船〈不都号〉の話からどんどんスライドし、1人の人物の数年にわたる来歴を事細かに語ったかと思うと、そこに出てきた別の人物の話に移る(繰り返し)。さらにとつぜん俯瞰的な視点になって年単位の時間が過ぎたり、自在な動きをする。ついてくのが楽しい。

■ 気に入ったのは、機械工が農家の二階で球電とコンタクトする話(上p113)とか、〈不都号〉乗組員への面倒極まりない指令伝達法(養殖真珠を改良した光学的通信手段。日本人が開発)とかだけど、もちろん、鉱山主と労働者のダイナマイト闘争とか、愉快ならざる話も並行する。

■ 無政府主義者もたくさん出てくるけど、アナーキーさでは空洞地球説にとどめを刺す。当然のこととして書いてあるんだもん。
《しかし何かがおかしかった。「今回は針路の取り方が難しいな」》上p178

 何もかもおかしい。前から無茶を書く人だったが、今回はとくにタガが外れている感。

■ 『逆光』という題についてはまだ不明ながら、写真の話とかあったなあ(光に照らされると無に戻るとか、写真と錬金術は不活性な貴金属から光を救い出すとか)。
 光といえばエーテル信者の面々は抱腹絶倒だった。エーテルの不在こそがその存在を証明し、万物の基礎となるそうです。

■ 気になってるのは、「別の空間」「不可視の世界」なるものへの言及が頻発する点。
 これまでの作品でもそういう対象のほのめかしはあり、『V.』や『競売』に出てくる神聖文字的な形象をその暗示として拾ったりしたのが今作の訳者・木原善彦さんのピンチョン論の1ページだったけれども(この本。いま絶版でどうするの)、今作では、不可視の世界は現実の隣にしっかり口を開けて待っている予感。
 まあその現実にしてからが、節度を知らない与太話で構成されているわけですが。木を見て森を見ない私には、めっぽう楽しい読書です。

■ 今日、いいなあと思った一文。他にもたくさん。
《融解した石のような液状の曲線的な変形が加わった黒い嵐の雲が空を覆い、その合間から差す光は、暗い畑では失われているが白っぽい道路では輝きを集めていたので、ときには道路とその先の地平線しか目に見えなかった。》上p108

…続き
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