趣味は引用
読めるだけ読むM&D その15
Mason & Dixon

前回…] [目次

 この第2部について、読む前から私が知っていたのはふたつだけだった。

 (1)ベンジャミン・フランクリンや、ジョージ・ワシントンといった実在の
   大人物が、うさんくさい姿で登場する
 (2)機械仕掛けの鴨が料理人を追いかけるエピソードがある

■ 第27章(pp266-74)

 で、この章でフランクリンが出てしまう。早くておどろいた。
 まあ、フランクリンと言えばフィラデルフィアである。有名な『フランクリン自伝』は、1757年から62年まで続いたイギリス滞在の途中で終わっており、いま小説の舞台は63年なわけだから、ここに登場したのは、いわば、自伝のあとを生きているフランクリンだ(翌64年からもういちど渡英してしまうので、このタイミングじゃないとM&Dのふたりには会えなかった!)。
 この多才な偉人は、多才である以上に何を考えているか不透明な、あやしい人間として描かれている。出会いのきっかけが街の薬局のアヘン入り薬、というところにすでにねじくれた意図を感じるものの、面白かったのは、“グラスハーモニカ(アルモニカ)”なる楽器の発明者、としての顔だった。
《大きい順に並べたボウル状ガラスの中心に軸を通し、回転させながらガラスを水でぬらし、指で触れると音が出るようにした楽器》

という辞書の説明を読んでもどんなものだがさっぱりわからないが、実物はこんなだった。



 どこから・どのようにして発生しているのか不思議な音色を聞きながらウィキペディアを見ると、「えも言われぬ甲高い響きが死者の魂を呼び寄せて神秘的な力を宿らせた」との噂だとか、「演奏会場で子供が死亡するという事件まで発生」したとか書いてあるので面白くて仕方がない。眉唾であるなあ。

 さっき、フランクリンは1757~62年までイギリスにいたと書いたけど、彼がグラスハーモニカを発明したのは1761年なのだそうで、本国政府とやりあう合間にそんなことまでしていたのかこの人は、と妙な気持になった(『自伝』にはこのことはひと言も書かれていない。フランクリン・ストーブなんてストーブのことは書いてある)。
 でもじっさい、その時期にロンドンで公演していたからこそ、アメリカへ向かうまえのメイスンも自分で聞くか噂を聞くかしていて、いまフィラデルフィアで発明者たるフランクリンと対面し「あれすごかったですね」と感想を申し述べられるわけである。そんなふうに考えてみると、歴史小説って面白いなあと思われたことだった。阿呆のような感想である。

こちらのサイトの左上にある絵は、グラスハーモニカを奏でるフランクリン本人だろうか。いずれにせよこの小説のフランクリン像は、こっちよりもけっこうこっちの風味が入っている気がする)


■ 第28章(pp275-88)

 んで、この章でワシントンが出てしまう。早くておどろいた。
 27章の終わりで、M&Dはとつぜん馬車に乗せられ、あれよあれよという間にフィラデルフィアからヴァージニア州マウントバーノンに移動する。そこで待っていたのがジョージ・ワシントン。当時はまだ大佐で、黒人奴隷(かつユダヤ教徒)を召使いにしていたり、話の途中で妻と合唱したりで変な男だった。
 この章には楽器は出てこないが、後半、あるフランス人がカナダから南下しつつ各所に鉛のプレートを埋めた、という話が謎を呼んでいる模様。それは何のため?という理由がわからず、そういえば鉛は電気を通すなあ、電気といえば・・・とフランクリンに接続されるのが面白い(その場にいる全員が、「フランクリンは・・・ 正気に返ってくれればいいんだが」と一致している。やはりか)。
 問題になっている鉛板の実物を見せてもらったディクスンは、それの裏に刻まれている文字が中国語であると気付く。ワシントンは激しく反応し、そこから、中国に進出したイエズス会がいまアメリカで暗躍してるらしい、という複雑怪奇な話につながっていくようだった。これはたぶん、あとあとまでひっぱるエピソードになるのではないか。
 わりとふつうに話は進んでいくが、前半で「アメリカ人は好き放題にインディアンと戦うだけじゃなく、戦わねばならぬときはイギリスとだって戦うだろう」みたいなことを述べるワシントンが、後半ではみんなに大麻を回しながら喋っているのをふつうの流れと言っていいのかは判断がつきかねる。フランクリンもアレだし、なんだ、アメリカはちゃんと建国できるのか。こんな心配をしたのは初めてである。

 フランクリンとワシントン。今回の冒頭に書いた(1)はもう消化されたことになる。(2)の機械鴨エピソードが楽しみなのはいいとして、この厚い小説、あとはいったい何が書いてあるのだろう。
(続く)



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