趣味は引用
読めるだけ読むM&D その5
Mason & Dixon

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「その2」で方針としたところの“わからなければ飛ばす”を自分で忘れかけていたため、進行が止まっていた。そうだった、どうせ6月末には翻訳が出るんだから、“わからなければ飛ばす”んだ。


■ 第4章(pp30-41)

 で、よくわからないのである。第3章の終わりで、メイスンとディクスンは女占い師から不吉な予言をされていたんだけど、それが的中したみたい。

 金星観測の任務を果たすべく、ふたりはシーホース号に乗せてもらってスマトラへ向かう。ところが、出港してすぐあらわれたフランス船から手ひどい攻撃を受けて、ほうほうのていで港へ戻る。船長いわく、「おれは30人の船員を失った。お前らはそんなに重要人物なのか?」
 銃弾と怒号の飛び交う激しい戦闘のあいだ、ふたりはうめく負傷者のなかで縮こまり、漏らしそうになっているしかなかったのだった。
 なんでこんなにタイミングよく襲われたのか、そもそも、スマトラがすでにフランスの手に落ちているのを英国王立協会も知っていたようなんだけど、と、ピンチョン作品の登場人物としては、なにか政治や国際情勢ともからみ合う、見えない“陰謀”みたいなものの存在を疑ってしまうところだ。
 スケールの大きすぎる陰謀は“運命”と見分けがつかない。いや、逆に運命が陰謀なのかも。「やつら、ほかには何を知ってるんだろう」と、暗い気持で酒を飲むふたりだった。

(あと、「いきなりだ」と思ったのは、小説の語り手であるチェリーコークが、早くもこの話を自分の体験談として語っているところ。つまり、襲撃にあったとき、彼はメイスン・ディクスンと一緒にシーホース号に乗っていたことになっている。いつ、どうやって知り合ったんでしょう)


■ 第5章(pp42-6)、第6章(pp47-57)

「スマトラ行きは勘弁してください。観測は別なところでしたいです」というメイスンの手紙に対する、王立協会からの返事は「つべこべ言わずに命令を守れ」。
 フランス船から襲撃された体験よりも、この王立協会の応対のほうがふたりのトラウマとなった。
 まあ、雷も二度は落ちないだろうし、ということで、シーホース号の修理を待ってふたりはあらためて出港する。船長は替わっているんだが、おかしなことに、あたらしい船長も行き先をよくわかっていないみたい。ある地点まで進んだらこれを開けるように、と封のされた指示書を持たされている。こんなことってありなのか(読み落としかもしれない)。
 苦労したのは船員が紹介されるところで、いちいちキャラ付けが濃かったんだけど、もう忘れた。ほんの端役にも情報を込める。何のために?
 船旅には気晴らしがないので、赤道を越えるときがお祭り騒ぎらしい。はじめて赤道を越える人間を"pollywog(オタマジャクシ)"と言うそうなんだが、儀式みたいなものとして、彼らは太った船員の汗ばむ太鼓腹にキスしなければならない。何のために?(2回目) 私の読みまちがいであってほしいと思った。

(ここまでの話を聞いている双子は「赤道なんて実際にはないじゃん」「なんでそんなに特別なの?」と不思議顔だが、チェリーコークいわく、「影が完全に自分の真下に来るんだ。半球をまたぎ越えるのは、ほんとに目に見える変化なんだよ」)

 メイスンとディクスンは、まだ見ぬスマトラをそれぞれに夢想している。


■ 第7章(pp58-76)

 なのに、気がつくと、シーホース号はケープタウンに着いていた。いまの南アフリカ共和国のあたりは、当時はオランダ領ケープ植民地だった。
 イギリスからアフリカ大陸をぐるっと回ってスマトラに向かうんだと思っていたが、どうもふたりは船を下りている。金星の観測は、ここ、喜望峰でもって行われることになったらしい。いや、私だってもっといろいろ書いてあったはずだと思うんだけど、わからないので飛ばしている。

 ここはオランダ東インド会社による貿易の要地なので、それこそ、スマトラなんかから連れてこられたマレー人、そしてもちろん原住民たちが、オランダ人のもとで働かされている。メイスンとディクスンは、この地ではじめて、彼ら奴隷の姿を目にする。
 支配者と奴隷の関係、これがいちばん大きなポイントだと思われるけれども、それを描き出す話の中身は、まずはどこまでも俗だった。
 ふたりは最初、オランダ人一家の世話になる。なぜかメイスンはその家の美人3姉妹プラス母親から有象無象の誘惑をかけられるが、夜になって、その植民地でしかありえない狙いがわかる(たいへんえげつない。とりあえずメイスンは、奴隷の女に「イギリスでは、他人に妊娠を命じる権利なんて誰にもないんだ!」と言う)。

 かろうじて読み取れたことも、読んだ端から忘れていくのでいろいろメモをとっているものの、いまこれを書くために見直したら、「わからない」「なんだろ」「?」ばかりで使えなかった。
 とくにメイスンとディクスンの会話をもとに、ふたりが身をもって体験したことから地続きに「歴史とは・・・」みたいな意見が引き出されてくる部分になると、ほとんどついて行けなくなる。
 やや精神的に疲れているためか暴走しがちなメイスンと、それをなだめる具合のディクスン。両者とも、別にかしこまって観念的な持論をぶつわけでないんだけど、そうだな、かりに形而下と形而上という区別があるとして、明らかに前者に属するように見えるエピソードの密度と量を増大させることで、いつのまにかそこを分ける壁を崩してしまうのがピンチョンお得意の書きかただと思うのだが、読んでる私には、依然、厚くて高い壁がある。そのうち読めるようになるんだろうか……
 ここで興味深いのは、このケープ植民地では、使役される奴隷の側だけでなく、支配者である白人のほうでも異様に自殺率が高い、ということ。奴隷制という悪が幽霊のように取り憑いている、みたいなことが、たしか書いてあったと思う。
(あと、白人に虐待されるアフリカ原住民、双方の決して一方的ではない関係、というのは、『V.』でも『重力の虹』でも出てきたはず)

 金星の日面通過はまだ先のため、当分のあいだは、このアフリカの南端が舞台になる模様である。
 ところで、ちょっと前から話題の映画「第9地区」を私はまだ見ていないんだけど、せんじつ友人からメールがあり、「あの映画、エイリアンの飛来先がヨハネスブルグってだけで、7割がた勝ったも同然じゃないですか!」と書いてあった。言いたいことは、わかる気がした。

…続き
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