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その21 ― ピンチョン Lot 49
The Crying of Lot 49 (Perennial Classics)

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 エディパがモーテルに着いた、その続き。
〈エコー屋敷〉の他の部屋や、外のプールに人影はない。もしだれかがエディパを見ていたとしても、《彼女のほうからは見えない》とわざわざ強調されているのがあやしげである。

 その夜、彼女の部屋を、メツガーという男が訪ねてくる。
 彼は、ピアスに雇われてそもそもの発端である例の遺書を作成した弁護士であり、遺産の共同執行人である。
 エディパはこの男に会うためサン・ナルシソに来たのだが、彼は彼で一日中エディパを探し、近辺のモーテルをしらみつぶしにあたってようやくここまでたどり着いたのだった(二人とも、待ち合わせをしようという発想はなかったようである)。
 いずれにせよ、ついに生前のピアスを知る人間がエディパの前に現れたわけだ。そんな重要人物の初登場シーンで語られるのは、しかし、彼が非常にかっこいいということなのだった。
He turned out to be so good-looking that Oedipa thought at first They, somebody up there, were putting her on. It had to be an actor. (p17)

《たいへんな美青年で、エディパははじめ〈彼ら〉――だれか天上にいるもの――が自分をからかっているんだと思った。こんなのは俳優にちがいない》p30/p34

 これから行動を共にするであろう弁護士が、役者ばりのニ枚目。
 話ができすぎていると読者は思うが、同様にエディパも不審がっている。わたしはだれか(自分より高いところにいるだれか)に騙されているのではないか、何者かがわたしを罠にはめようとしているのではないか。その「だれか」「何者か」を、彼女は“They”としている。
she looked around him for reflectors, microphones, camera cabling, but there was only himself and a debonair bottle of French Beaujoulais […]

《エディパは彼のまわりを見まわして、反射板、マイク、カメラのケーブルなどがあるのではないかと思ったが、フランスのワイン〈ボジョレ〉の大瓶を手に彼が立っているだけだ。》

 とりあえずドッキリだという証拠も見つからないので、エディパは彼を部屋に入れる。しかし彼女の疑いは続く。
《こんなのは俳優にちがいない》という直観は半分正解で、事実メツガーは、幼いころ子役として映画に出演していたと話しはじめる。ますますあやしい。

…続き
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