趣味は引用
翻訳小説と二人

 6月27日(土)、ジュンク堂新宿店でのトークイベント

 豊崎由美の「翻訳小説新刊リレー対談 Vol.3 ゲスト:岸本佐知子」
 http://www.hakusuisha.co.jp/news/2009/06/_vol3.html
 
 を聞いてきた。

 こういう書店主催のトークショーって、遅刻して途中入場になるのはすごくバツが悪い気がするので余裕をもって早めに着くようにしており、はじまるまでのあいだは席について本でも読んでいようと思うんだけど、持ってきた本にはなぜだかいつもほかの書店のカバーがかかっていて、会場設備の確認とかしている目の前の店員さんに申し訳ないかんじで取り出せなかったり、かといってカバーをむしり取って読むというのも、なにせ周囲はそのようなイベントに来る人ばかりだからおそろしく、この自意識はどうせ一生治らないとあきらめていっそ革製のブックカバーなんてものを買っておくのがよいのかもしれないが、しかしそれだったらそのお金で本の1冊でもほしい、そしてそれには書店のカバーをつけてもらったら、ホラ問題は何も解決していない――とか考えていると店員のかたがマイクで何か喋っていて豊崎・岸本両氏が入場、トークショーははじまった。
 以下、あたりさわりのなさそうなところだけメモ。じつはあたりさわりがあるとわかったら消す。

 私ははじめてだったんだけど、今回「Vol.3」になっているこのイベントは、豊崎さんがホスト役になって海外文学(翻訳小説)好きをゲストに招き対談、そのゲストが次のゲストを紹介する、という方式らしい。
 豊崎さんが聞き出した、岸本さんの海外文学との出会いと読書遍歴は
 
 ・小学生のとき、ルナアル『にんじん』に遭遇
 ・中学で筒井康隆の衝撃
 ・大学でブローティガン

 これらはエッセイなんかでも語られているとおりだけど、『にんじん』にいたっては、実際に繰り返し繰り返し読み込んだ岩波文庫(今の版とは別)を持参、朗読までしてくれた。詳しくは書かないが、『にんじん』の中身も、その実物もすごいものであるのはよくわかった。あとさき考えず、本には果敢に書き込みをすべきである。
 14才の脳にくさびのように打ち込まれた筒井康隆、というのはうれしくなるほどよくわかる。あと、豊崎さんは高2で中央公論社「海」のラテンアメリカ特集に触れて以来の南米読者らしい。筋金らしい筋金だと思った。

 いちばん真面目な表情で語られていたのはブローティガンおよびその藤本和子訳についてで、そのなかで「藤本和子は訳もすごいが訳者あとがきもすごい」という話になり、『アメリカの鱒釣り』(のあとがき)の一節が紹介された。そうなると、部屋に帰ってから本棚の『アメリカの鱒釣り』をひっぱり出さないわけにはいかない。ここだ。
《ブローティガンのことばは完了しない。いつもそれはつぎのはじまりを予期させる。そして、同時に、はじまりは、いつもおわりをのみこんでいる。そして、そこで、わたしたちは、たしかにひとつの現実にふれた、と感じるのだ。
 ブローティガンのことばは幻想的だ。幻想は、人工的に現実を完結させない、と思う。むしろそれは、現実を逆探知する回路なのだ。そして探知された現実は、わたしたちの思想を完結させるものとしてあるよりは、完結しがちなわたしたちの洞察を揺さぶるものとしてある。人工的に現実に終止符を打てると予定する想像力を敵にまわして、ブローティガンはアメリカを描いてみようとしたのだろう。かれの心を惹きつけたのは、アイデアではなく現実だった。現実に近づけば近づくほど、かれの語り口は幻想的になるようだ。》

 本篇のあとに訳者あとがきでこんな文章に出遭ったら、当のその本はもちろん、部屋にある限りのブローティガンをみんな読み返したくなってしまうだろう。
 
 後半は、最近出た翻訳小説から、読んで気に入ったものを二人が交互に紹介してくれた。どれもこれも「こんなに面白かったんだよっ!」と伝えたいあまり、両者とも喋りながら顔がほころんでいるようだった。十二分に伝わる。まずそれを貼る。

昨日のように遠い日―少女少年小説選昨日のように遠い日―少女少年小説選
(2009/03)
柴田 元幸

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世界の涯まで犬たちと世界の涯まで犬たちと
(2007/09)
アーサー ブラッドフォード

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犬たち犬たち
(2009/04/23)
レベッカ・ブラウン

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通話 (EXLIBRIS)通話 (EXLIBRIS)
(2009/06)
ロベルト ボラーニョ

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パパの電話を待ちながらパパの電話を待ちながら
(2009/04/07)
ジャンニ・ロダーリ

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最終目的地 (新潮クレスト・ブックス)最終目的地 (新潮クレスト・ブックス)
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 このうち、『世界の涯まで犬たちと』は、なんか動物に癒されちゃったりする話なんじゃないかと思って勝手に警戒していたのだが、ぜんぜんちがうようなのでぜひ読んでみたい。レベッカ・ブラウンも、この『犬たち』は体の贈り物とはタイプが異なるそうで、そう聞くとがぜん興味が湧く。
『昨日のように遠い日』は…… ほしい、ほしいんだが、これは以前読んだ雑誌「飛ぶ教室」の特集→これに、訳し下ろしの短篇をプラスしたもので、あらためて買う(買い直す)踏ん切りがついていなかった。二人とも絶賛していたが、収録作中、ダニエル・ハルムスがすごいんだ。かの文芸誌モンキービジネスでも継続的に掲載されているので欠かさず読んでいる。
 
 最後、岸本さんから予告された次回「Vol.4」のゲストはかなり意外な人選だったのでおどろいた。期待。
 
 ところで、「翻訳小説の読者は全国で三千人」とは豊崎さんの持論だが、同日ほぼ同時間に同じジュンク堂の池袋店で

 小野正嗣×陣野俊史「ロベルト・ボラーニョと21世紀の海外文学」
 http://www.hakusuisha.co.jp/news/2009/06/post_161.html
 
 こういうトークショーもやっており、少ないパイを二分するようでいかがなものか。ほんとはこっちにも行きたかったのであるよ。
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