2004/04/02

その20 ― ピンチョン Lot 49

競売ナンバー49の叫び

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 エディパは車を走らせる。
 不自然な街並みのサン・ナルシソは、巨大企業ヨーヨーダイン株式会社の宇宙開発部門の城下町である。雇用の中心であるこの会社の誘致にはピアスがあたり、大株主になっていた。自分がこの街の生みの親だから、と彼はエディパに語ったことがある。
 プレハブやコンクリートが並ぶ麻痺状態の街(日曜日)を見て彼女は、走りやすい道路とか、続いてゆく風景は幻想だと考える。この道の先につながるハイウェイは、ロス・アンジェルスという麻薬患者に血液を運ぶ静脈で、その上を走行している自分たちは、都会に発展の幻想を供給するヘロインの一粒ではないか。
 暗いイメージに気が滅入り、エディパは目についたモーテルに入ることにする。〈エコー屋敷〉“Echo Courts”という名のその建物は、入口にニンフ像が置いてあって、悪趣味な仕掛けがついていた。
The face of the nymph was much like Oedipa's, which didn't startle so much as a concealed blower system that kept the nymph's gauze chiton in constant agitation, revealing enormous vermilion-tipped breasts and long pink thighs at each flap. (p16)

《そのニンフの顔はエディパによく似ていたが、それよりももっと驚いたのは、送風装置が隠してあって、ニンフの着ているガーゼの下着をひっきりなしに吹きあげ、それがはためくたびに巨大な朱色の乳頭をした乳房と、長いピンクの腿を見せることであった。》p28/pp31-2

 ニンフの体があらわになるのも、(1)隠されたものが(2)発見される、という過程の一バリエーションである、というとこじつけくさいと思われるかもしれないが、上の原文を見てもらえれば、たしかに例の reveal という語が使われているのが確認できるだろう。じっさいエディパは、自分に似たこのニンフ像を見て先の「啓示」(revelation)、「聞こえなかった言葉」云々を思い出している。

 訳本の解注をアンチョコにすると、サン・ナルシソの「ナルシソ」とは伝説の聖人「聖ナルシソス」のことで、これはギリシャ神話の美青年ナルシソス(ナルキッソス)と同名である。ナルキッソスに恋こがれ、声だけの存在になったニンフの名が「エコー」というのだった。
〈エコー屋敷〉の支配人はマイルズといい、年の頃はたった16歳、ビートルズ風の格好で自分のテーマソングを口ずさむ。彼の組んでいるロックバンドは〈ザ・パラノイド〉。やめなよこんなモーテル。

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