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幽霊/-じゃないし (2)

前回…

 ベケット"Ghost Trio"(「幽霊三重奏」)の続き。

◎ 第2幕(Action)
女の声:彼は、彼女の声が聞こえると思います。

 第1幕ではじっと座っていた男が、第2幕では動き出す。でもそれは、第1幕で部屋の説明をしていた女の声に指示された動きであるみたい。
男ははっと顔を上げ、かがんだままドアのほうに向きを変え、動きを止める。5秒間。
女の声:誰もいない。
男、最初の格好に戻り、カセットに身をこごめる。
女の声:もう一度。
(男、4行上と同じことをする)
女の声:次はドアへ。
男、立ちあがり、カセットを椅子の上に置いてドアへ。カメラに背を向け、右の耳をドアに当てる。5秒間。
女の声:誰もいない。[5秒、静止] 開けなさい。

 開けてもやっぱり「誰もいない」んだが、何が起きているのやら。
 「女の声」は、この劇のナレーションみたいなものだと思っていた。テレビ用だし。だから、ひとつめの引用、「彼は、彼女の声が聞こえると思います。」に出てくる「彼女」というのは、ナレーションの女ではなく、別の女のことを言ってるんだと思う。
 とすると、この男は、その女、彼女が来るのを待っているのだろうか。あるいは、タイトルが「幽霊三重奏」であるからして、その女はほんらい来るはずのない、つまり死人だったりするんだろうか。
 男が、亡くなってしまった彼女のことをじっと考えていると、なんだか彼女の気配がかんじられてドアの向こうをたしかめている……と考えると、いちおうそれっぽい気がする。
 かりにそうだとして、その女とナレーションの「女の声」は関係ないのか気にかかる。声が「窓へ。」と言えば男は窓の前に立ち、「開けなさい。」と言えば窓を開ける。
 当然、男を演じる役者にはこの女の声が聞こえているはずだけど、劇中の男としては、聞こえていないという前提で動いていると考えるのがふつうだろう。そうでなければこの男、ドアの気配を気にしている場合ではない。
 そうすると、なんだろう、女の声は、役者に演技をつける演出家の声みたいなものか。それを劇中で聞かせてしまうという変わったことをしているのかと思っていると、次の部分はこんなふうになる。
男、布団の枕のあたりで壁に向かう。かかっている鏡で自分の顔を見る。全景カメラからは見えない。
女の声:[驚いて] あら!
5秒後、男は頭を垂れ、鏡の前にうつむいて立つ。2秒間。

 いや、「あら!」て。そんなふうに意外だったりするのなら、この声の女は劇を完全にコントロールしているわけでもないみたい。じゃあなんだ、幽霊の声か。「彼女」の幽霊の声か。いや、いっそ「彼女」とも男とも関係のない、べつの誰かの声だったりするのだろうか。
 あるいは、声が女だから錯覚しているだけで、じつは当の男の内心の声だったり? でも最初に男を「彼」と呼んでいたし、それに鏡で自分の顔を見て「あら!」はないような… まさか鏡にほかの何かが見えたとか? だったら男がもっと反応するはずだし…

 もちろん、答えは書いていない。
 書いてあるのは、とにかく女の声がして、それに従って男は部屋のなかを動くということだけだ。男が動く以外には何も起こらない(だけど、声がして男が動くということは起きている)。
 部屋を一周させられて椅子に戻った男は、じっとうつむいてカセットをつかんでいる。それを3台のカメラは全景から近づき、近づいてまた離れていく。
 最後に、男はまた立ちあがり、ドアを開いて外をうかがう。やはり誰もいない。結局、最初と同じ姿勢で椅子に座り、身をこごめているのが映される。かすかに音楽が聞こえる。
音楽は次第に大きくなる。5秒間。
女の声:止めなさい。
音楽、止まる。全景カメラの映像。5秒間。
女の声:繰り返して。

 「繰り返して。」で第2幕は終わり。
 
 音楽について書き忘れていた。使われる曲にも指示があって、ベートーヴェンのピアノ三重奏「幽霊」なんだそうである。youtubeでさがしたらすぐ見つかった(→これとか)。
 まったく便利だ。が、ということは、もしかして曲だけじゃなく、このテレビ劇も? という誘惑をおさえつつ、第3幕に続く。

…続き




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