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2008/12/01

ビオイ=カサーレス『モレルの発明』 [14]



 またここから入る。

(1)完璧な模擬像をつくる
(2)完璧なので意識が宿る
(3)何度でも再生できるから、永遠に再生を繰り返せる
(4)事実上の不死である

 この流れでもって「不死が実現した」とするために必要な条件は、「オリジナルが消えること」である。このことは[8]から何度も書いている。
 永久不滅の完全な模擬像ができた、というだけでは、自分のコピーが生まれたのにすぎない。ここで自分(オリジナル)がいなくなれば、コピーはもうコピーではなく、それが唯一のオリジナルになる。この段階まで来て、本物が永久不滅になる。自分が不死になるには、自分が消えないといけない。

 うすうす予感されるこの道理が正しいことは、小説を読んでいるうちにわかる。そもそも、機械のはたらきがはじめて明かされたモレルの演説の場でもって、同時にそのようなことが匂わされていた。いや、匂わされるも何も、はっきり書いてあった。モレルの口から「私は、自分を含めこの7日間のみなさんを撮影しました」と聞かされた仲間のなかには、危険を直感する者もいたのである。
《ストエヴェールは真剣な表情で答えた。――
「馬鹿だな。気がつかないのかい? チャーリーも撮影されたんだぜ。モレルがザンクト・ガレンにいたとき、シュヴァハター社の従業員が次々に死んでいった。ぼくは死んだひとたちの写真を雑誌で見たから、その人たちかどうか確かめることができる。」
 モレルは身体を震わせながら威嚇するような態度で部屋を出ていった。一斉に叫び声があがった。[…]
「モレルは神経の細やかな男なんだよ。どうしてまた彼を侮辱したりしたんだい?」
「皆、わかっちゃいないんだ」と、ストエヴェールは怒って叫んだ。「モレルは彼の機械でチャーリーを撮影した。そしてチャーリーは死んだ。シュヴァハター社の従業員を撮影したら、そのなかから不審な死を遂げた者が出た。それでいま、モレルはこのわれわれも撮影したと言っているんだ!」》pp122-1

 モレルの発明は、被写体を抹消せずにはおかない。それは“被写体を不滅にする”システムにおいて、原理上、欠かせないはたらきだからだ。そのことは比喩的にでも暗黙のうちにでもなく、はっきりと書いてあるのである。
 しかも、はっきり書いてあるのはここがはじめてではない。もっと前、「私」がまだ、フォスティーヌを本物の人間の女だと思っていたころ、彼女に贈るために花を摘んだことがあった。
《見かけの悪くない花だけを選んで抜き取った。色の淡い花でも動物的な生気がある。しばらくしてから、花を取り上げてきれいに束ねようとした。とても腕に抱えきれぬほど抜き取っていたからだ。だが、もうすっかり枯れていた。》p51

「これはたんに不吉さを暗示する場面ではないだろう」という判断はうっすらあった。つまり、「この小説は、花が何かの隠喩として咲いたり枯れたりするような小説ではないだろう」とは感じていた。そのせいでここは謎のシーンだったわけだが、いまや事情ははっきりわかる。小説をはじまらせたモレルの機械の作用が、そのまま小説を終わらせるように作用していくだろうと思って、私は続きを読んでいく。

「私」が、閉じ込められていた映像の壁から逃げ出した場面まで戻る。
 必死の努力で機械の仕組みを理解して、「私」はスイッチを切り脱出した。努力の甲斐あって、機械一式を自分でも使えるようになっている。
 機械は動力部のほかに、島全体を記録し、それを島全体に投射するカメラ・レコーダ・映写機のセットと、それらの小型版である携帯式のセットから成る。
「私」は携帯カメラを持ちだして実験を行う。花や葉、蝿、蛙を被写体として撮影し、映写するのである。
《被写体となった植物――葉や花――は、五、六時間後に枯れてしまった。蛙は十五時間後に死んだ。
 映像は枯れも死にもせず、生き続けている。
 蝿に関しては、どれが本物でどれが人工なのか見分けがつかない。》p159

 やはりカメラが殺すのだ。実物は死ぬ。残された映像は実物そのものだから、そちらが不死となる。イコール、実物が不死となる。ここにはこの原理が端的に示されている。
 しかしいちばん面白いのは、最後だと思う。「蝿に関しては、どれが本物でどれが人工なのか見分けがつかない」。

 私がこの小説にほれぼれするのは、アクロバティックな不死論のためではなく、この1文の感触のためである。


→[15] [16] [17] [18]


モレルの発明 第2版 (フィクションの楽しみ)モレルの発明 第2版 (フィクションの楽しみ)
(2008/10)
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