2008/08/06

読中日記(5)


■ 私を家まで乗せて帰ってくれる電車のホームに降りると、昼の落雷の影響で下り路線のダイヤが乱れまくっていた。運転再開から間がないらしく、やがてやってきた電車のなかは洗濯機の脱水槽みたいになっていたのであきらめて駅を出て(どうしてあれで人死にが出ないのか、こういうときいつも人間って頑丈だと思う)、ミスドで小一時間『われらが歌う時』を読んだ。


■ ネタバレにならないよう説明なしで書くと、読んでる私はどうせ「私」が作曲するんだろ、それで世界がひっくりかえるんだろ、と思ってページをめくっているのだが、さてどうなることか。下巻、350ページ前後からものすごくスピードがあがっている印象。時間の流れかたが変わり、場面も飛ぶように移る。
《声楽について私が持っていた知識はどれも間違っていた。ただ、幸運なことに、その知識はほとんどゼロに近かった。音楽についてこれまで学んできたことは何もかも忘れ去れ、とまではジョナは言わなかった。家を出て、学校に行くようになってから身につけたものだけを忘れればよかった。
 ジョナは私に口を開けと命令し、驚いたことに、あの音が私の口から出てきた。アンダンテで四拍ほどの長さだった。次にそれが八拍になり、さらに十六拍に延びた。それぞれの音を長く延ばす練習に丸一週間費やした。そして、翌週も同じ練習を続けた。その内、何週間練習していたのかも忘れるようになった。交互に発声し、音が混じるようにした。危なっかしい声音を兄の精確無比な声音に合わせるのが私の仕事だった。私が持っている音域全域をくまなく試した。別々の周波数がくっきりとしてきて、焦点が絞られてくるのを感じた。自然の力だった。明日を目指して私たちはユニゾンで延々と歌った。至福とはどういうことを言うのか忘れてしまった。
「何に驚いてるんだよ?」とジョナが言った。「できるに決まってるだろ。生まれ変わる前の世界では、毎晩こんな感じで歌ってたんだから」》下巻、p384

 ところで、私じしんはまったくの音楽音痴(←変な表現)なので、連日ここで引用しているような部分に正しく驚けているのか、ぜんぜん自信がない。
《楽譜ほど奇妙なものもないだろう。時間の指標なのだ。こんなにも突拍子もないアイデアを思いついた人物がいたなんて、ほとんど奇跡と言っていい。固定された指示を守ることで、同時性を再現できるのだ。流れを作る。その流れは運動であると同時に瞬間でもあり、連続体であると同時に断面でもある。あなたがそれをやっている間に、あなたとあなたとあなたは別のことをやっている。楽譜は旋律そのものを記録するわけではない。旋律の動くポイントとポイントの間の空間を記述するだけだ。そして、ある一つの曲が全体としてどのような総計に達するのか調べるためには、それを演奏する以外に方法がない。》p394

 ここでは音楽の話に重ねて――いや、音楽の話ですよね。それにしてもパワーズは真面目だ。今日は450ページまで読み、残りはあと100ページ。


■ ミスドを出て駅の様子をうかがうと、ふつうの満員電車程度まで回復していたので乗って帰る。隣の男性が読んでいた「AERA」の見出しのひとつ、「中国人のセックスを笑うな」というのはあまりにずるいと思った。
(よく見ると、この見出しには元ネタがそのまま入っている)

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