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2008/08/05

読中日記(4)


英語青年 2008年 08月号 [雑誌]

■ 汗と雨に濡れて部屋に帰ると、こないだamazonで注文した「英語青年」2008年8月号(ミルハウザー特集)が届いていたので読む。雑誌じたいが薄いから、特集とはいえ小ぶりだが→目次、「揺らぎながら光を鈍く沈ませる空気」という佐藤亜紀の文章が面白い。最後まで読むとミルハウザーの書きぶりが見事に抽出されていて「なるほどなあ」と舌を巻くのだけど、じつは、そこにいたるまでの枕も読みどころである。こんなふうにはじまる。
《ケーブルテレビ局コメディ・セントラルでやっているアニメーション『サウスパーク』に、主人公たちの担任ギャリソン先生がその特殊な性癖故に職を追われ、小説を書き始めるというエピソードがあった――それもただの小説ではない。グレート・アメリカン・ロマンス・ノヴェルだ。
 そうか、と私は頷いたものであった。君らもあれはうざいと思ってたんだ。》p11

 ここから佐藤亜紀は、どうしてアメリカ作家は「偉大なるアメリカ小説」、アメリカについての小説を書きたがるのだろうという話を、ほとほとうんざりした調子で書き連ねる。あなたたちの祖国に対する関心なんてこっちの知ったこっちゃないよ、と、全体の分量の3/5がうんざりに費やされ、それに較べてミルハウザーは、と続くのだった。
《ピンチョンにしてもエリクソンにしても、リチャード・パワーズの果てまでが、延々とアメリカについて[…]語り続けているのは奇怪なことだ。》pp11-2

■ あはははは、と笑うのは、もちろん私がいまパワーズのアメリカ小説、『われらが歌う時』を読んでいるからで、まだ下巻の350ページくらいだから、もう数日間は、アメリカを描いて描いて描き続けるこの長篇を読んでいると思う。『われらが歌う時』は音楽の小説で、それと同じくらい、人種の小説だった。よもや、あのパワーズの小説を読んでいて、「おれはいまフォークナーでも読んでいるんだろうか」という気持になるとは予想していなかった。
《「子供たちには人種の壁を越えるようにと教えることにしました」
 父親が娘を振り返り、鼓膜が破れてしまったかのように、首を左右に振る。何か無慈悲なものが彼の頭の中にしみ込んできた。「またか?」
「四半世紀経つ頃には」とデイヴィッドが始める。黒人親子はどちらもそれを無視する。
「選択をしたんです」 どの単語も、ディーリアにとってさえ、過大評価されているように聞こえる。「それに名前をあたえたりはしない。それは、子供たちが自分でやるでしょう」 欲しいものなら何であれ。「皆が人種の壁を乗り越えた未来を念頭に置いて、子供たちを育てることにしたんです」
「壁を越えるだって?」 博士はその問題の言葉を、患者の症状を復唱する時のように、自ら発音してみる。「つまり、白人として育てると」》下巻、pp202-3

 あ、いや、ぜんぜんフォークナーには似てないな。何世代ものあいだ、周囲の「一滴でも黒人の血が混ざれば、子孫はみな黒人」みたいな圧力にぎりぎりと苛まれてきた一家が、音楽と物理学で小説を(世界を)ひっくり返す展開を期待して私は読んでいるのだけど、それは見たことのないタイプの「偉大なるアメリカ小説」を期待しているということでもある――のかどうか、つまり、読んでいる最中の小説に自分が何を求めているのかは、最後まで読んでみないことにはわかりません。
《[…]そのコレクションも一貫性がなく、あらゆるジャンルをカバーしていた。何らかの法則に従ってレコードを整理しているようだったが、私にはそれを見つけ出すことができなかった。数回目の訪問で私はついに降参し、正解を求めた。彼女は恥ずかしそうに笑うと、「幸せの順番に並べているの」と答えた。
 私は彼女のコレクションをもう一度見た。「曲がどれほど幸せかってこと?」
 彼女が首を振って「私をどれだけ幸せにしてくれるかっていう意味よ」と言った。
 「ほんと?」 彼女は申し訳なさそうにうなずいた。「並べかえたりはするの?」と言って私はさらにもう一度コレクションを見遣った。見る見るうちに、コレクションが彼女の心の動きを実録する巨大なヒットチャートに変化した。
 「もちろん。取り出してかけるたびに、別の場所に戻すわ」
 これまでも彼女がレコードをかけるところを見てきていたが、それは完全に見逃していた。私は笑い声を上げ、私の笑い声の効果を彼女の顔の上に発見するや否や、自分を呪った。「でも、どうやって探しているレコードを見つけるわけ?」
 気が狂っているのかと言わんばかりの表情で、彼女は私の方を見た。
 「ジョゼフ、自分が好きなもののことはちゃんと分かっているわよ」》下巻、pp231-2


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