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実在しない作家が実在する 続きの続き
前回

《ジョン・ヒューストン監督がハンフリー・ボガードの主演で『黄金』を映画化したとき、トラヴェンはかなりの有名人になった。もっとも映画製作の技術アドバイザーを務めたあいだも、ハル・クロウヴという名のトラヴェンの友人という仮面をかぶってはいた。》p62

 上の引用は「ビッグ・ベティとミス・キューティ」から。
 この映画のエピソードは、もちろん、『バートルビーと仲間たち』でも詳しく書かれている。
《ヒューストンは回想録の中で、『シエラ・マードレの財宝』の脚本を書いて一部をトレイヴンに送ったところ、セットの組立から照明、そのほかいろいろなことについて便せん二十枚に詳細なプランを書いた返事がかえってきたと語っている。》p210

 トラヴェン=トレイヴンの原作にもとづいた映画、『シエラ・マードレの財宝』("The Treasure of the Sierra Madre")の邦題が『黄金』だから、ふたつの引用はズレていない。念のため。
(「ビッグ・ベティとミス・キューティ」では、『黄金』の話の前で『シエラマドレ山脈の財宝』という名も出してしまっているので、ふたつの別の作品のように見えてしまう。とはいえそれで困る人もいないと思う)

 ジョン・ヒューストンは、「謎に包まれた作家」本人とどうしても会いたくなって約束を取りつける。しかしやってきたのは、「ハル・クローヴス。翻訳家。アカプルコとサン・アントニオ」との名刺を持った男だった。
《手紙には、自分は体調を崩してそちらに行けなくなった、しかし、ハル・クローヴスは親しい友人で、わたしについてと同じくらい作品のこともよく知っている、それ故あなた方がどのような質問をぶつけても、答えることができるはずですと書いてあった。》

 2週間、クローヴスは撮影に協力し、ヒューストンと交流をもったという。
《[…]そのうち人間の苦しみと恐怖が彼のいちばん好きなテーマだということが分かった。撮影が終わり、ヒューストンが助監督たちと一緒に映画の仕上げにかかったが、そのときにあの男が映画関係の代理人だというのは嘘で、代理人と名乗っているあの男がおそらくトレイヴン本人にちがいないということに気がついた。》

 いい話だと思う。
 何がいいと言って、こんな嘘のような過程を経て、映画はほんとうに完成しているという事実がいい→これ

 そうなるとこの『黄金』を見たくなるのが人情だ。しかし古めの映画だから近所の小さなレンタル屋では置いていなかった。沿線のお店をまわるのもめんどうなので、先週の土曜夜、新宿TSUTAYAまで行ってみた。
 紀伊國屋前の横断歩道を渡り、エスカレーターで4階の洋画フロアにあがると、左側が「クラシック」の「監督別」コーナーで、すぐに「ジョン・ヒューストン」が目に入り、DVDとビデオが何作も並ぶなかに『黄金』もあった。エスカレーターを降りてから見つけるまで、20秒もかからなかった。なんて探しやすい黄金!
 無事レンタルして外に出ると、ああ今日は6月14日(土)、こうしているあいだにも、いままさに、歌舞伎町のロフトプラスワンでは「電脳コイル」ナイトが開催中なんだなあと思い出され、たいへん悔しくなった……と、いきおいで書いてみたものの、そのとき同時に思ったのは、“悔しさに実感が伴っていない”ということだった。
 というのも、私はこれまで、ロフトプラスワンに行ったことがない。すると「電脳コイル」ナイトは、架空の場所の、架空のイベントであるようにさえ思えてきて、そそくさとTSUTAYAの青い袋をバッグにしまった。感情には現実のより所が必要ということか。
 ……しかしながら、と「電脳コイル」のことを考える。メガネで見えるようになる電脳空間にリアルを感じる子供を描いて、「手で触れられるものが本物なの? 手で触れられないものは、本物じゃないの?」とアニメのキャラの口から言わせたあの作品のことを考えるにつけ、行ったことのない場所に感情を込める(=本気で悔しがる)くらいのことをしなくては、全26話を繰り返し見た意味がないのじゃないか。そんなことを思った。そして、だんだん悔しくなった。
 そこから強引な飛躍を何度か繰り返せば、「存在を知らなかった作家に感情を込める(=実在しなかった作家を実在させる)」こともできるようになるのじゃないか。できるようになって何の得があるのかはわからないにせよ。
 
 そして、さらにしかしながら、いまは『黄金』の話だった。

続き
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