趣味は引用
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
実在しない作家が実在する
 岸本佐知子編訳の『変愛小説集』が面白かったので、部屋にあった『ラブストーリー、アメリカン』というアンソロジーも読んでみた。編者はジョエル・ローズとキャサリン・テクシエというふたり。絶版だけどたまにブックオフで見かけます。
 
ラブストーリー、アメリカン (新潮文庫)ラブストーリー、アメリカン (新潮文庫)
(1995/03)
ジョエル ローズ、

商品詳細を見る


 こんなタイトルでありながら、翻訳しているのが柳瀬尚紀であることからうすうす想像されるように、「こんなタイトルのアンソロジーに入っているのでなければ、およそ恋愛小説には分類されないだろう小説」ばかりが入っている。だからその点で『変愛小説集』の先輩格にあたる――と言えるかというと、じつは微妙である。退学しちゃった先輩(校内では伝説)、みたいな位置か。
 
 こっちのほうに収録されている作品は、傾向として、内容がどぎつい。容赦なく悲惨だったり血みどろだったり、もしかすると戦闘的フェミニズムだったり(知らないけど)する。そしてあまさず、後味が悪い。「白人女をモノにするための黒人教本」(ドクター・スネークスキン)や、「レイプなんて怖くない」(リサ・ブラウシルド)なんかは、タイトルを内容が裏切ってくれない。編者ふたりの作品も入っているが、どちらもいまひとつ。
 なかなか名前の大きい作家の短篇も入っていて、さすがにキャシー・アッカーには迫力があった(「わが母」)が、ウィリアム・T・ヴォルマンのはなんだか人工着色料のようなけばけばしさで、そこがいいとはどうも思えない(「イエローローズ」)。いっぽう、デイヴィッド・フォスター・ウォーレスが、現代のとんちきな恋物語をジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』に重ねて書いた「『ユリシーズ』の日の前日の恋」は、あからさまに異様な文字面になっており、『ユリシーズ』を読んでいない私にも面白かった。
 
『変愛小説集』収録作の半分くらいはいきなり妄想の世界に入っていて、そのほうが「どぎつい」印象は薄くなるようだ。不思議といえば不思議。ちなみに、そちらに入っていた作品のなかで唯一、A・M・ホームズ「リアル・ドール」だけはこっちのアンソロジーにも収録されており、バービー人形と恋に落ちるこの短篇の人気を見せつけられた。どうかと思う。なお、こちらでの表記はA・M・ホウムズ「「ファック・ミー」とバービーはいった」だった。

 しかしながら、『ラブストーリー、アメリカン』でいちばん「!」となったのは、ここまで書いたこととは何の関係もなく、バリー・ギフォードの「ビッグ・ベティとミス・キューティ」だった。作品がとくべつ面白かったというわけではなく、だいたい、どんな話だったかもう憶えていない。血みどろのやつだったかな。ただ、こういう部分があったのである。
《ロロ・ラマーは、エジプトシティーからトロカデロアイランドへ車を走らせながら、B・トラヴェンのことを思った。生きているうちは、出生、本名、家系など、人生の細部をなんとも秘密にしたがった作家である。小説の愛読者だったロロは、いまでもトラヴェンの作品のたいへんなファンだ。『シエラマドレ山脈の財宝』、『死の船』、『綿摘みたち』など。ジャングルシリーズでは、『モンテリアへの進軍』、『ジャングルからの将軍』、『政府』、『カレッタ』などなど。
 トラヴェンが周到に経歴を隠そうとしたのも、然るべき理由があった。生れ故郷のドイツでは急進派のジャーナリストで、活動家でもあったので、指名手配されたのだ。メキシコへ逃れ、一度ならず名を変え、商船の船員になったりマホガニーの森で働いたりして、最後には結婚し、長編短編作家としてメキシコシティーに落ち着く。トラヴェンと妻は、そこでふたりの娘を育てた。ジョン・ヒューストン監督がハンフリー・ボガードの主演で『黄金』を映画化したとき、トラヴェンはかなりの有名人になった。もっとも映画製作の技術アドバイザーを務めたあいだも、ハル・クロウヴという名のトラヴェンの友人という仮面をかぶってはいた。》p62

 B・トラヴェン。読んだことはぜったいないが、なんだかこの経歴にはおぼえがある。それでちょっと考えて思い出した。この作家、こないだ読んだこの本に出てきたのだった。


バートルビーと仲間たちバートルビーと仲間たち
(2008/02/27)
エンリーケ・ビラ=マタス

商品詳細を見る


 こないだ読んだんならもっと早く思い出せ、という話ではある。

続き
コメント
この記事へのコメント
はじめまして。
管理人様、はじめまして。あおしゅんと申します。
わたくしも先日、『変愛小説集』を読んで、「リアル・ドール」をみつけて、
「ああ、これって、『ファック・ミー、と・・・・』じゃん」と思い出したクチでございます。
懐かしくなり、コメントしております。

これからも、おもしろい本の紹介、よろしくお願いいたします。いつも楽しみにしております。
2008/06/14(土) 13:56:27 | URL | あおしゅん #-[ 編集]
こんにちは
『変愛小説集』は第2弾があってもいいですよね。

変愛に限らず、いろんな“テーマ別短篇集”が出ればいいのに、
と思っていますが、

 意外と、むかし出ている

のかも、という気になりました。
油断できません。(油断?)
2008/06/16(月) 02:33:05 | URL | doodling #OtUrN.LY[ 編集]
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。