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岸本佐知子編訳『変愛小説集』(2008)
変愛小説集
講談社


 タイトル通りにとらえれば、変な恋愛小説を集めたアンソロジー。読んでいくうちに「変って何なのよ」と思わされるアンソロジー、でもある。

 まず、アリ・スミス「五月」は、樹木に魅入られてしまう話。そういうことはたぶん本当にある、と『カラスヤサトシ』第3巻にも描いてあったが、この短篇ではさらにもうひとひねり(もうひと難儀)がある。
 
 レイ・ヴクサヴィッチ「僕らが天王星に着くころ」は書き出しから素晴らしい。
《モリーに宇宙服が出はじめたのは春だった。ほんの一年前までは原因不明の珍しい皮膚病だと思われていたこれも、いまやすっかり流行り病になっていた。皮膚が宇宙服に変わり、やがて宇宙に飛び立ってしまう。そういう病気だ。》p33

「そういう病気だ。」 なら仕方ない。しかもふざけたことに、きちんとしんみりさせてくれるので、やはり難病ものは人の心を動かすのだと思われたことである。同じ作者の「セーター」は、彼女の編んでくれたセーターを着ることが魔境への冒険になる話。比喩ではない。
《「よおし、じゃあ着てみようかな」と彼は言った。
「はっぴ、ばーすでい、とぅー、ゆー、」彼女が小さく歌った。「はっぴ、ばーすでい、とぅー、ゆー」》p59

 なんと不吉な幕開けであることか。この作家、さすが2作収録されるだけのことはあって、めっけものだった。
 
 ジュリア・スラヴィン「まる呑み」は、いぜん『200X年文学の旅』で紹介されていた短篇で、こないだの「ユリイカ」世界文学特集号での岸本×山崎対談でも名前が挙がっていたもの。自分の家の芝生を刈りに来た十代の男子によろめいた主婦が、彼をまる呑みにする。そして始まる二重生活。原著ハードカバーの表紙がかっこいいと思う→これ
 
 さっきの「僕らが天王星に着くころ」を若い難病ものとすれば、ジェームズ・ソルター「最後の夜」は、高齢の難病ものになる。それがこのアンソロジーでは箸休め的短篇。登場人物3人のどこに愛を見るかだが、いずれにしろあんまり変じゃない。
 
 イアン・フレイジャー「お母さん攻略法」
 「お母さんと付き合おう!」 以上。

 A・M・ホームズ「リアル・ドール」
 妹のバービー人形に恋をした「僕」の話。訳者あとがきでも示唆されているが、そんな「僕」よりも、人形を人形として扱う妹の方がずっと不穏。人間の女の子はおそろしい、という話かといえば、人形は人形でやはりこわいと思う。逃げ場なしか。(逃げ場?)
 
 モーリーン・F・マクヒュー「獣」
 近ごろ注目されつつあるらしい作家→こことかで絶賛されてた)のごく短い作品で、なるほどこれはすごい。13歳のころの「わたし」と父が、霧雨の降る教会からの帰り道に出遭った、謎の獣。変といえばこれがいちばん変かも。
 
 スコット・スナイダー「ブルー・ヨーデル」
 彼女の乗った飛行船を追って大陸を駆けめぐる青年。唯一、アクションの度合いが大きい。変な世界を設定すると、そこに生まれる恋愛じたいはふつうになるみたい。恋愛じたいを取り出すことはできないと思うので、たしかにこれも変愛小説。でも面白いのは恋愛と関係ない部分にある気がする(樽に入ってナイアガラの滝に飛び込む自殺志願者を引っぱり上げる職業とか)。
 
 ニコルソン・ベイカー「柿右衛門の器」
 何をどう訳せば「柿右衛門」になるのかと思ったら、ほんとに柿右衛門様式の焼物をめぐる話だった。主人公は、陶芸のベストな材料を探す女の子。どうでもいいが、目利きである大伯母のくだすジャッジが非常に馬鹿馬鹿しくてよかった。
「でも正直いって、牛は感じないわ」→「でも、やっぱり牛は感じないわ」→「よくやったわね。たしかに牛を感じるわ。おめでとう」
 おめでとう。
 
 トリを飾るジュディ・バドニッツ「母たちの島」は、なにか本気さの種類がほかとちがう。男のいなくなった島で、母たちだけの手で育てられた子供(男の子/女の子は切り離される)。そんな女の子のひとりである「わたし」から見た、母たち、ほかの女の子たち、男の子たち、そして漂流者。圧巻。

 以上、11作。ないものをあるように見せる奇術の技を高めに高めたすえ、ついに無と有の境界をせせら笑うにいたる幻影師を描いたスティーヴン・ミルハウザーの小説が、こんなコピーで映画にされてしまうこのご時世、こういうアンソロジーの存在は貴重だと思った。三次元の男女が演じる恋愛ものを見ると吐く、くらいの人にもおすすめできる。そしてたぶん、これは想像だけど、ふつうに恋愛ものが好きな人にも面白いのじゃないだろうか。
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