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その9 ― ピンチョン Lot 49
The Crying of Lot 49 (Perennial Classics)

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 付き合っていたころ、エディパはピアスとふたりでメキシコを訪れたことがあった。そこでたまたま、レメディオス・バロの個展に入ったのだ。
 バロはスペイン生まれの女性画家で、その作品「大地のマントを織りつむぐ」を前に、エディパは思わず泣いてしまう。
 
 絵の中では、塔に閉じ込められた少女たちが巨大なつづれ織りを刺繍している。
[…] embroidering a kind of tapestry which spilled out the slit windows and into a void, seeking hopelessly to fill the void: for all the other buildings and creatures, all the waves, ships and forests of the earth were contained in this tapestry, and the tapestry was the world. (p11)

《そのつづれ織りは横に細長く切り開かれた窓から虚空にこぼれ出て、その虚空を満たそうと叶わぬ努力をしているのだ。それというのも、ほかのあらゆる建物、生きもの、あらゆる波、船、森など、地上のあらゆるものがこのつづれ織りのなかに織り出されていて、そのつづれ織りが世界なのである。》p22/p25

 この絵から感じた哀しみを、一生抱き続けるだろうとさえエディパは思う。ピアスを含め、まわりのだれも彼女の涙に気付かない。そこがまさに哀しいのだし、そこに哀しみをおぼえることで彼女は自分を塔の少女に重ねる。
She had looked down at her feet and known, then, because of a painting, that what she stood on had only been woven together a couple thousand miles away in her own tower, was only by accident known as Mexico, and so Pierce had taken her away from nothing, there'd been no escape. What did she so desire escape from?

《足もとを見おろすと、そのとき、一つの画のせいでわかったのだ、いま立っているところは単に織り合わされたもの、自分の住んでいる塔から発して、二千マイルつづいているものに過ぎない、まったく偶然にそれがメキシコというところで、つまりピアスは自分をどこからも連れ出してきているのではない、どこにも逃げ出せるところなどないのだ、と。》

 太字にした部分が翻訳では飛んでいるが、なくてもわかるだろう。
《どこにも逃げ出せるところなどないのだ》――しかし、いったい何からそんなにも逃げたかったというのか?

…続き
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