2004/04/01

その8 ― ピンチョン Lot 49

競売ナンバー49の叫び

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 くだんの「ズレ」ほど大事ではない気もするが、前回出てきた「啓示」(revelation)という言葉にもいちおう注意しておきたい。これは“隠れていたもの・隠されていたものが、おもてに出てくること”であり、“それを告げる予言や知らせ”のことでもある。探求を扱ったこの小説では山ほど使われ、ほとんど鍵言葉にされているといっていいだろう。ただし種類はふたつあるはずだと思う。

(1) 何か秘密がある。それを追いかけていると、真相が啓示を通してあらわれる。
(2) 何かを追いかけるからこそ、その何かのうしろに秘密の真相があるように思えて、目についたものをそこにつながる啓示だと考えてしまう。

あらゆる種類の啓示が出てくる》とは、さまざまなヒントがエディパの前にあらわれるということだろう。だが、それらのどれが本当に真相につながるものなのか、あるいはエディパの勝手な思い込みでしかないものなのか、彼女じしんはそれを区別できる立場にいない。これも追い追い見ていくことになるはずだ。

 ところで、小説が動きはじめる前から、エディパは自分の置かれた状態をふたつのイメージになぞらえていた。
 ひとつめはグリム童話のラプンツェル。邦訳についた志村氏の解注をまとめると、これは魔女によって高い塔に幽閉された女の子のお話で、彼女は長い髪を窓から下ろし、それを王子が昇ってきたことで(紆余曲折の末に)解放される。
 自分にとって王子様になりえるのはピアスなのかも、と夢想までしたエディパだが、そもそも彼女を塔に閉じ込めた「何か不吉な魔術(some sinister sorcery)」が何だったのか、この小説には書かれていない。そして結局、エディパはピアスを捨てたのだ。なぜなら、
[…] all that had then gone on between them had really never escaped the confinement of that tower. (p11)

《そのころ二人のあいだに起こったことは、じつはみな、その塔のなかから出ることがなかったのだろう。》p22/p25

 エディパがこの悟りにいたるきっかけになったのは、レメディオス・バロという画家の描いた絵画である。そこからふたつめのイメージがもたらされる。

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