趣味は引用
「ユリイカ」の続き

きのうの分…

 きのうの続きで「特集*新しい世界文学」。本の中ほどは海外作家の短篇を集めた“アンソロジー 21世紀の文学”になっているので、その感想を少しずつ。

ケリー・リンク「墓違い」(アメリカ、柴田元幸訳)
《「ビーフジャーキー?」と彼は言った。「死んだ人間ってそういうの食べるの?」
 「保存料がね」と死んだ女の子は曖昧に答えた。》p96

 詩人のつもりの男の子が、ガールフレンドだった女の子の墓をあばく。どうしてそんなことになったのか、そしてどうなったのかを、リンク独特の間接的なんだかよくわからない語り口で描く(男の子の古い知り合い、が語り手)。この人、発想は突飛だが、展開の仕方はしっかりすぎるほどしっかり地に足がついているのでますます妙である。ほんとどうなってるんだろう。最後の1行のマヌケな感じにすべてが凝縮されているように見えてくる。
 この特集の別のところで、ケリー・リンクの世界を「ソフィア・コッポラの対極」みたいに言っていて(by小澤英実)笑った。


ミランダ・ジュライ「共同パティオ」(アメリカ、岸本佐知子訳)
《でもヘレナとわたしはたぶん絶対に仲良くはならない、というのは一つには、わたしの背が彼女の半分くらいしかないからだ。人はたいてい同じぐらいの背の人どうしでかたまる。そのほうが首が楽だから。ただし恋愛となると話は別で、その場合は身長の差が逆にセクシーになる。あなたのためにこの距離を越えていくわ、的に。》p104

「yom yom」第5号に載っていた短篇に度肝を抜かれたので→そのときの感想、いちばん期待していた。やっぱりいい。すごくいい。ぜひ読ませたい友達の顔が次々に浮かぶ。生きていくのが大変そうな女性の一人称、それを通して仮構される相対化の視点、字面だけだと残酷なようで、文脈のなかではそうならないユーモア。ミランダ・ジュライはアメリカの川上未映子か(って、ちがいますけどね)。
 この「共同パティオ」も、「yom yom」第5号掲載の「水泳チーム」、「その人」と同じ短篇集No One Belongs Here More Than You に入っているそうなので、全訳が待たれるところ。


ヴラディーミル・カーミナー『ロシアン・ディスコ』より三篇(秋草俊一郎・甲斐濯訳)

 作者はロシア生まれのユダヤ人だがドイツに亡命してドイツ語で書いているらしい。ベルリンでの生活をネタにした短篇の連作は壮絶の一言。こんな世界もある…のか? 三篇どれも無茶苦茶に見えるが、とくに最後の「わたしの小さなお友達」は、あんまり無茶なので逆に本当かもしれないと思わせる。笑いたいんだけど、笑っていいのか。感想の持って行き場に困る。


ロベルト・ボラーニョ「ジム」(チリ、久野量一訳)
イグナシオ・パティージャ「動物小寓話」(メキシコ、久野量一訳)
エドムンド・パス=ソルダン「夕暮れの儀式」(ボリビア、安藤哲行訳)
サセル・アイラ「悪魔の日記」(アルゼンチン、久野量一訳)

 南米作家の超短篇が4本。スケッチ風のものやモノローグも。パティージャの「動物小寓話」が気に入った。なんだか知らんが鉱山の地下にいる動物を見ようと集まる野次馬たち。


ヨハン・ハルスター「ベトナム。木曜日。」(西田英恵訳)

 カウンセラーの男のもとに毎週やってくる、ベトナムの傷を負った女性。いまググってみて作者がノルウェー人と知り驚く。こんな話を書くんだなあ。阿呆のような感想である。


アニー・ベイビー「七年」(中国、泉京鹿訳)

 うーん、これは…… この1作だけで何か言うのはあきらかに乱暴なんだけど、若いカップルの愛と破滅(in都市)みたいなものを書くのには中国の作家はまだ熟してないんじゃなかろうか。それは作家のせいか、という気はする。
 このアンソロジーじたいにはどれひとつ作家の出身国は書かれていないので、「そういうことは考えずに読め」という編集部のお達しなんだろうが、そうするとなおさら「これはない」ということになる。


 このアンソロジーはもっと多くていい、どれだけ多くてもいい、と思いながら読み終えてしまったが、ほかにも各国(地域)別の状況レポートや論考など、見知った名前に交じってたぶんおそらく若めの人もバリバリ書いており、そういう意味でも「新しい世界文学」なんだろうと思った。
 まったく未知だったもの、あるいは本屋で手を伸ばせないでいたもの、さらには部屋に積んだまま埃をかぶっているもの、いろんな小説を読まねば、というか読みたかったんだ自分は、という気持にさせてくれる、ありがたい特集でした。


ユリイカ 2008年3月号 特集=新しい世界文学ユリイカ 2008年3月号 特集=新しい世界文学
(2008/02)
不明

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