趣味は引用
その6 ― ピンチョン Lot 49
競売ナンバー49の叫び

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 エディパとムーチョが雇っている弁護士はローズマンという。
 彼は彼なりの問題を抱えていた。というのは、この男、TVドラマのペリー・メイスンに強い羨望と嫉妬をおぼえており、それは彼の妻がメイスンの大ファンだからという理由もあるのだが、あんな腕利きの弁護士になりたい/でもなれない、という二律背反な感情は、彼においてメイスンを中傷するドラマの台本を書き続けるというかたちで発現しているのだ。なんでだ。

 むかしの恋人を遺言執行人に指名。ピアスがどうしてこんなことをする気になったのかいぶかしむローズマンにエディパは、あの人は「何をやるかわからないひと」だったから、と答えている(“He was unpredictable.”)。
 一緒にランチを食べている間、ローズマンはテーブルの下でエディパにちょっかいを出すが、厚いブーツを履いて「絶縁された」彼女は無反応を決め込む。
“Run away with me,” said Roseman when the coffee came.
“Where?” she asked. That shut him up. (p10)

《「ぼくと駆け落ちしようよ」コーヒーが出て来たときにローズマンが言った。
 「行く先を言って」と彼女がきいた。それで彼は黙ってしまった。》p20/p23

 つまるところ遺産の執行とは、細かく帳簿を調べてピアスの事業の概要を知る・遺言の検認・貸付を回収・財産目録の作成・不動産を査定し、現金化するもの/しないものを分ける・賠償請求の支払い・税金を清算し遺産を分配する……といった、ひたすら面倒な作業なのだった。説明を聞いただけで早くもエディパは音をあげている。自分じゃやりたくない。
“But aren't you even interested?”
“In what?”
“In what you might find out.”

《「だけどあなた、興味がないのかな?」
 「何に対して?」
 「何が飛び出してくるかってことに、さ」》

 これに続く地の文は、おそらくLot 49 の要ともいうべき特徴を有しており非常に興味深いのだが、長くなるので引用は次回である。
 精神分析医ヒレリアス、弁護士ローズマン、と立て続けに困ったキャラが登場し、そういう変人は今後ますます多くなっていって、次第にエディパは他人を評定する立場にたてなくなる、などと書くと思わせぶりだろうか。

 つけくわえると、個人的にはこのローズマンという男はけっこう好きである。

…続き
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