趣味は引用
「ガルガンチュワとパンタグリュエル」を読んでみる その76

[前回…]

 前回の分を書いてから、こんなものがあることを知った。「文語訳」もないものかな。

 聖書全文検索(日本聖書協会)
 http://www.bible.or.jp/vers_search/vers_search.cgi


 パンタグリュエルは乾喉国人をみんな殺した、と書いてきたのだけれども、ひとり例外がいた。王様の混乱麿[アナルク]である。この人だけは、パンタグリュエルが人狼+その他の巨人兵と戦っているあいだも、パンタグリュエルの家来たちと一緒に酒を飲んでいたのだった。それで生き残った。この戦犯の取り扱いはパニュルジュに任される。ほんとパンタグリュエルはパニュルジュを信頼している。
《[…]アルバニヤ人の筒型頭巾のように襞飾りのついた、小じんまりした麻織の可愛い胴衣と水夫型の綺麗な洋袴とを、例の王様に着せてやった。靴は履かせなかった。その理由は、(とパニュルジュが言った、)靴など履くと眼が悪くなるからだった。その上に、閹鶏[きんぬきどり]の大羽根が一本附いた可愛い青い大黒帽子を被らせた。――いや、これは私の考え違いで、確か羽根飾りは二本附いていた筈だったと思う。――それから青と緑との二色の見事な革帯を締めさせた[…]》第31章 p227

 詳細なわりに、これほどイメージを結ばない描写も珍しい気がする。けっこう派手なんじゃないかと思うのだが、これで百姓の格好らしい。ちょうどエピステモンの地獄話を聞いたあとだったので、「生前えらかった者ほど、死後は卑しい職に就く」ルールに鑑みて、死んでから困らないよう、この王様には今のうちから、緑醤油[ソース・ヴエール]の呼び売り人として仕事を覚えさせておく。これがパニュルジュの計画だった。
《――[…]では、手始めに、こう叫んで見ろ、「緑醤油は、い・か・が・あー」と。
 すると哀れな王様は叫んだ。
 ――低すぎるな。(とパニュルジュは言った。)そして、王様の耳を引っ張ってこう言った。
 ――もっと高く、ほれ、ソ・ソ・レ・ドと。よしその通り、よい喉をしているな。王様でなくなった今の身の上くらい幸福なことは、今まで貴様には金輪際なかったのだぞ。》p228

 ここでも、このあとも、混乱麿王のセリフは書かれない。この物語は、悪役に対して、どうも陰険なのである。陰険ついでにパニュルジュは、この混乱麿王に、娼婦の老婆を嫁として取らせた。披露宴のあと、パンタグリュエルはふたりに店まで与えてやる。新妻から容赦なく鉄拳を受ける混乱麿は、《無可有郷国中で今までかつて見られなかったような実にやさしい緑醤油売りとなった》。
 このような混乱麿王の転落は、『第一之書 ガルガンチュワ物語』に出てきた、隣国レルネの敵王ピクロコルの最後その42と比べれば、ずいぶんましと言える、かどうかはわからない。

 すっかり戦後処理である。『第一之書』だと、戦争が終わって話も終わるのかと思いきや、「テレームの僧院」の構想が始まり、それがひとつの山を成していたその44。あれほどではないものの、『第二之書』でも、最後にもうひとつ別の世界が描かれる。この物語を「人を食った話」とすれば、次の挿話はその際たるもので、何しろ語り手は、これからパンタグリュエルの口の中へ入って行くのである。

コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック