2007/11/17

「ガルガンチュワとパンタグリュエル」を読んでみる その69


[前回…]

 いよいよ出陣するその前に(まだあるのだ)、先の戦いで捕虜にした、ただひとりの敵兵を連れてきて、パンタグリュエルは言い渡す。
《――そちの陣屋の王のもとに戻り、その目で見たことを申し伝え、明日の午頃、拙者のために歓迎の宴を開く覚悟で居れと申し渡してくれよ。遅くとも明朝になると思うが、我が艦隊が到着するや否や、百八十万の戦士と、一人残らず拙者以上に身丈大きい七千の巨人とを従えて進軍し、そちの王が我が国を侵したのは狂気の沙汰、事理を弁えない所業であることを、とくと呑みこませてつかわすからな。
 こう言ってパンタグリュエルは、海軍の備えもあるような振りをしたのである。》第28章 p197

 おお、策士だ。もちろん、こんなふうに「明朝攻める」なんて言っておいて、じつは寝入りばなに夜討をかける作戦なのである。
 それにこの発言でもうひとつ、ようやくわかったことがある。ここでパンタグリュエルは
《そちの王が我が国を侵したのは》

と言っている。前に「その61」でつまづいたように、私はこの話に出てくる国と国との関係がよくわからなかったのだが、どうやらこういうことらしい。

 “無可有郷国”という国があり、そこの王がガルガンチュワである。その領土のなかに“不破見人”の都があって、“乾喉国”からやって来た“乾喉人”が今そこを攻めている。“不破見”は国名ではなく、“無可有郷国”の一地方の名前らしい(ここを治める領主の娘がガルガンチュワの妃になり、パンタグリュエルを生んだ)。

 おそらくこのような関係だと思われる。そしてこの『第二之書』の題字はこうだった。
乾喉人国王パンタグリュエル物語
   及びその驚倒すべき言行武勲録

 あれ、やっぱりおかしいのじゃないか? パンタグリュエルはいつ“乾喉人”の王になるのか(よその国じゃないの?)。それは戦後の話になるのか。わからないので先に進むことにする。

 くだんの捕虜を帰すにあたって、パンタグリュエルは上記の言伝て(虚偽)のほかにもうひとつ、お土産を渡した。
《それには、大戟[たかとうだい]と雄桂樹果[グラン・ド・コツコニード]とを焼酎[オ・ド・ヴイ]に浸して樹果[ジャム]のようにしたものが一杯に詰めてあったが、この箱を敵王のもとへ持参して、これを一匙[オンス]でも何も飲まずに食べられたら、何を恐れることもなくパンタグリュエルに立ち向えるだろう、と伝えよと命じた。》p198

 これ、さっきの伝言とは微妙に矛盾するわけだが、保身に汲々としている捕虜はそんなことには気付かない。パンタグリュエルは、自分の目的は《人々を富裕にし、これを全き自由の身にすることにあるのだ》、と見得を切って捕虜を送り出す。

 捕虜はあっというまに陣地に戻る。不破見人の都を包囲していた乾喉人、こちらの王の名は混乱麿[アナルク]という。この王に、捕虜はパンタグリュエルが言った通りのことばを伝えた。
 しかし問題はパンタグリュエルが持たせた箱である。相手から寄越したというだけでも怪しく映るだろうあの箱の中身は、じつは劇薬と下剤なので、それがいったいどんな筋道をたどって敵方の口に入るかの顛末は、ひとつのごちゃついた挿話をなすと私は思っていた。
《それから、樹果[ジャム]のはいっている例の箱を王に渡した。ところが、混乱麿王がこれを一匙嚥みこむやいなや、忽ち喉がかっかと燃えあがるようになり、[…]》

 って、もう飲んでる。この呼吸、さすが混乱麿王はわかっていらっしゃる。
《[…]懸雍垂[のどちんこ]に潰瘍ができ、舌の皮がぺろぺろ剥けた。そして、これを医すためには、ひっきりなしにがぶがぶ酒を飲むこと以外に鎮静法がなくなってしまった。[…]
 これを見た王の部将、大官、警護の士たちも、こんなに喉をからからにする力が、この薬にあるのか、ひとつ試してみようと、これを食べてみた。ところが、皆、王と同じことになってしまった。そして、一同は酒徳利に武者振りつくこととなった[…]》太字は引用者

 そして混乱麿王の家来たちも、みんな呼吸がわかっているのだった。
《そこでどの軍兵も同じく、がぶがぶごくごくと飲み、乾杯をし始めた。要するに、誰も彼もが飲みに飲んだのはて、ごちゃごちゃになって、陣屋で豚同然に眠りこんでしまった。》pp199-200

 パンタグリュエルはよい家来に恵まれ、加えて、よい敵にも恵まれていた。

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