2007/11/15

「ガルガンチュワとパンタグリュエル」を読んでみる その68


[前回…]

《――これより進撃するに先立って、(とパンタグリュエルは言った、)今し方そなたたちが樹てた勲を記念するために、見事な戦捷飾り[トロパイヨン]を一つこの地に立てたいと思う。》第27章 p191

 いや、意味がわからない。戦捷飾り[トロパイヨン]とは、戦いに勝ったのを記念して作るクリスマスツリーみたいなものらしいのだが、これから進軍していわば本戦をたたかうというのに、ずいぶんな余裕だ。急いだ方がいいのではないか。しかしみんな大喜びで材料を集めてくる。なんでも、一本の木に、飾りとしてさまざまな種類の武具や馬具をひとつずつ釣り下げるようで(鞍、拍車、斧、大鉄槌、その他もろもろ)、たしかに楽しそうではある。そればかりかパンタグリュエルは、わざわざ18行におよぶ詩まで綴って添えるのだった(戦捷記念賦)。ほんとに、急いだ方がいいのではないか。
《雄々しく猛き戦士[もののふ]四人の
 この地にぞ勲たてたる。
 両スキピオやファビウスのごと、
 智慧をば用いて甲冑をつけず、
 […]》p192

 そのころパニュルジュはと言えば、戦いのあとの酒宴を記念して、同じような飾りを作っていた。こちらで使われるのは、飲み食いした鹿の角、兎の耳、鳩の脚、鍋、壺、杯、その他もろもろ。そして手の込んだことに、やっぱり18行の詩もつけるのである。
《欣び勇んだへべれけ四人
 この地にぞ踞坐[あぐら]をかきて
 バッコスがため酒宴ひらき
 鯉のごとくにがぶがぶ飲みぬ。
 […]》p193

 で、ここまで面倒くさいことをしたうえで、パンタグリュエルは言い放つ。
《――さあ、皆の者、食い物のことであまり暇をとりすぎたぞ。日夜饗宴三昧の者どもが輝かしい武勲を立てることは、めったに見られぬ。目指す影は旌旗[はた]の影、求むる煙は軍馬の煙、栄ある響きは甲冑の響きだけだぞ。》p194

 言っていることはかっこいいのだが、説得力は微塵もなかった。
 さらに、いよいよ腰を上げたかと思われたパンタグリュエルは、よせばいいのにもうひとつ、余計なことをする。この巨人は、気合を入れたついでに一発、盛大な“転矢気”を放ったのである。
 転矢気。これは読めないと思う。書いておこう。これで「おなら」なのだそうである。

 転矢気[おなら]

 私は知らなかったが、この本でも読めばよくわかるのだろうか。とはいえいま引っかかったのは漢字の表記なので、この場合はこっちの本のほうがいいのかもしれない。それはともかく、パンタグリュエルの転矢気は、何が問題だったのか。
《その転矢気で大地は九里四ほうに亙って鳴動し、その臭い風のなかから、五万三千人の不恰好の矮人[こびと]が生れ出たし、その透し屁からは、それと同じ数の縮こまった矮人女が生れ出た》第27章 p195

 これが余計なことでなくてなんだろう。この結果から考えると、パンタグリュエルにとって「転矢気」と「透し屁」は明確に別物であったとわかるが、だからなんだ。かくなるうえは、この合計十万六千人の矮人を引き連れて乾喉人を総攻撃にかかるのが筋だと思うが、そんな展開はない。実際にあるのは、パニュルジュの進言を受けたパンタグリュエルが、この矮人の男女を一組ずつ娶合わせてあげた、という話だけである。
《パンタグリュエルはその通りにしてやり、これらの矮人たちにピグメという名をつけてやった。そして、すぐ側にある一つの島へ送って、そこに住まわせることにしたが、その後、その島一杯に非常に繁殖してしまった。》pp195-6

 なるほど「ピグメ」は「ピグミー」の訛りなんだね!とかいっても、だからなんなんだ。このくだり、ぜったい思いつきで書いていやがる。そして困ったことに、思いつきで書かれている部分のほうが、予想がつかないぶんだけ面白い気がすることも、たまにあるのだった。そろそろ本戦です。

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