2007/11/07

2007/11/03


 先週、11月3日の土曜日は、中央大学の学祭の一環で企画された「保坂和志+古谷利裕」対談を見に行った。
 立川からさらにモノレールで20分ばかり行った先にある中央大学多摩キャンパスは、入ってみればすごい人混みで、活気あふれる若者の洪水を避けるように避けるようにと歩いていくと、いつのまにか立ち並ぶ出店の列の裏を歩いており、一定量ずつサランラップに包まれた豚肉の山など横目に見ながら、「自分は学祭とは縁のない学生生活だったなあ」とあらためて思わされたことである。
 豚肉ではなく対談の感想を書いておくつもりでいたのだけど、ぐずぐずしているうちに当の古谷氏の「偽日記」に記録が出ていた。以下のリンク先から、「07/11/03(土)」と「07/11/04(日)」の分をご参照。
 →http://www008.upp.so-net.ne.jp/wildlife/nisenikki.html

 説明なくデヴィッド・リンチの映画の話で始まり、「リアリティがあるから面白いのではなく、面白いからリアリティがあるんだ」と続いていった対談で、私がいちばん「おぼえておこう」と思った保坂和志の発言について書かれているところがちょうどあったのでコピペしてしまう。
《●講演会での保坂さんの発言でぼくが重要だと思ったのは、人が言っていることはいちいち「真に受ける」べきだということ。例えば荒川修作が「死なない」と言えば、それは本気で「死なない」ということを考えているのだ、という前提でその発言を読み、その作品に触れるべきだということ。それは、アラカワ教に入信することでも、アラカワを教祖として奉るのでもなく、アラカワの頭のなかを自分の頭によってトレースして、アラカワが「死なない」といっている時のその身体的な状態を自身の身体によって再現-体験してみることで(完全には無理でも、そこに近付こうとすることで)はじめて、アラカワの言う「死なない」の意味が理解できる、というようなことだと思う。つまりここでは、言葉の意味は、その時の身体の状態ということになる。》
07/11/03(土)

 人の言ったこと・書いたことを、距離を置いて論評するのが「知的」な姿勢であるように思われがちだけど、そうではないんじゃないの、という流れで出てきた発言だった。たしか。
 とはいえこういうことは、保坂・古谷両氏のように、何というか、あたまの地力が強い人が言うから意味があるのであって、私みたいなミーハーの言い訳にしていいはずがない。上のコピペ、最後の一文はさすがだと思う。
 あと、実際にあの場にいた感想としては、対談の後半、会場からの質疑応答で、真剣に答えようとするために質問者を逆に問い詰めるように見えてしまう保坂和志がものすごく面白かった。

「偽日記」では「07/11/04(日)」のほうで触れられている、“小説には、小説内のルールがある”という話から、以前、高橋源一郎が書評のなかで、小説とは何なのかをえらくあっさり定義していたのを思い出した。
《「ある世界があって、そこにはなにか法則がある。けれども、その法則がなぜあるのかは誰も知らない」ということを書いているのが小説なんだ。》
『いざとなりゃ本ぐらい読むわよ』p91

 それだから高橋源一郎も保坂和志も小説の話になるとカフカが出てくる――という感想はぜったい安易だが、ここで唐突に『優雅で感傷的な日本野球』(1988)の書き出しを引用する。
《わたしはここにこうして静かに座って本を読んでいる。ここはわたしの部屋で、およそ二万冊の本と茶色いオス猫が一匹いる。猫の名前は『365日のおかず百科』だ。
 猫の名前が『365日のおかず百科』であることについて、わたしはとやかく言われたくない。
 オス猫なら『365日のおかず百科』、メス猫なら『太宰治週間』。それがここの決まりなのだ。「それさえ守ってくれれば、あとは自由に使ってくれてかまわない」――大家はそう言ってこの部屋を貸してくれた。わたしとしても、折角見つけた部屋を追い出されるのはごめんだ。それに、わたしはその決まりを気にいっている。オス猫なら『365日のおかず百科』、メス猫なら『太宰治週間』。》

 この書き出しを何度読んでもすばらしいと思う私は、いつかなんかの折りに引用したいとずっと考えていたのだが、いま書き写してみたらまさに“ルール”と“法則”の話だった、というようなまとめ方をしてはいけない。
 この小説、はじめて読んだ18才のときは、いまにして思えばかなり「無理をして面白がった」きらいがあったのだけど、去年、河出文庫に入ったときに読み直してみると、面白い冒頭からはじまって、どこをどこまで読んでも面白く、そのまま読み終えてしまったのが自分としておどろきであり、うれしくもあった。


優雅で感傷的な日本野球 〔新装新版〕 (河出文庫)優雅で感傷的な日本野球 〔新装新版〕 (河出文庫)
(2006/06/03)
高橋 源一郎

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