2007/10/10

「ガルガンチュワとパンタグリュエル」を読んでみる その58


[前回…]

 テレビ雑誌「TV Bros.」(9/29-10/12号)に小さく掲載されていた、
動くリア・ディゾンがグラビアより10倍老けてるのはなぜですか?
                     (東京都西東京市・悪い魔女?)

 という投稿があたまから離れない。

 猛勉強で智識を詰め込んだパンタグリュエルは、多くの学生、先生、弁論家を打ち負かし、ソルボンヌ大学のあらゆる神学者に論争を挑んで降参させてきた。おかげでその名は高まり、噂が噂を呼んで、ついにははるばるイギリスから大学者がやって来た。名を豪井物成[トーマスト]という。たぶん漢字は“すごいものなり”と読めばいいんだと思われる。
 この学者はパンタグリュエルと対面し、哲学から降魔術、錬金術、カバラについてまで議論を尽くすべく、公開討論を申し込む。その口調は極めて真面目で礼儀正しいのだが、言ってることは変だった。
《しかしながら、いかようなる法式を以って討論いたしたきかは、次の通りでござる。
[…]言葉を発することなく、ただ単に身振りのみにて討論したい。何となれば、論題となれることは、極めて嶮難なるが故に、人語を以ってしては思うがままにこれを解明するには不十分がためでござる。》第18章 p144

 一方のパンタグリュエルも、謹んでこれを受ける。
《[…]申し出されたる討議法、即ち、言葉を発することなく、身振りを以ってする方法には、大いに賛成いたしまする。何となれば、かようにいたせば、卿も拙者も意志流通いたしますし、その上、弁論が最高潮に達しましたる折に、かの阿呆なる詭弁学者どもが打ち鳴らす拍手喝采をも免れることができましょうから。》p145

 公開討論は翌朝7時、ナヴァール学寮の大広間で行なうことに決められて、各々いったん宿に戻るわけだが、眠れないほど興奮し、精神が昂揚していたのは豪井物成[トーマスト]のほうだけではなかった。文字通りの巨人・パンタグリュエルも、柄にもなく緊張し、じっと書物をめくって瞑想にふけるのだった。
 が、そこにまたパニュルジュが顔を出す。この男は主人のパンタグリュエルに酒を勧め(「先ず第一に二十五杯か三十杯くらい、たっぷりお酒を召しあがってから、お床にお就きになり、楽々とお眠りになることですなあ」)、そればかりか、明日の朝は自分が豪井物成[トーマスト]の相手をすると申し出る。
 家来のくせにずいぶん活躍の場が用意されていて、『パンタグリュエル物語』はここのところ、「パニュルジュ物語」の色合いが濃くなってきた。『第一之書 ガルガンチュワ物語』でも、中盤以降、ジャン修道士という登場人物がガルガンチュワを喰ってしまうほど大暴れしていたのを思い出した。

 で、翌朝が来る。一晩飲み明かしていたパニュルジュは、もちろん徹夜で会場に向かう。まわりはすでに聴衆で一杯である。わざわざこのためだけにイギリスから海を渡ってきた豪井物成[トーマスト]は言う。
《[…]議論のための議論は、愚生の望むところではござらぬ。その上に、かくのごとき行ないは卑賤極まりなきもの故、そこに控え申す極道者の詭弁学者ども[詭弁学者やソルボンヌ野郎やソルボンヌ下郎やソルボンヌ白痴やソルボンヌ阿呆やソルボンヌぼけやソルボンヌとんちきやボンソル野郎やヌンボル野郎やボルヌン野郎ども]にお任せあってしかるべく、これらの者どもは、討論をいたしても真理を求めず、むしろ強いて異説を樹てるをこととし、喧嘩口論をのみ求め居るのでござるからな。》pp149-50

 パンタグリュエル+パニュルジュのたたかう相手がこの豪井物成[トーマスト]であり、豪井物成[トーマスト]のたたかう相手がパンタグリュエル+パニュルジュであるのとはまた別に、作者ラブレーのたたかう相手はほかにいたようである。「ソルボンヌとんちき→ボンソル野郎→ヌンボル野郎→ボルヌン野郎ども」という展開はなかなかすごいと思う。
 そして珍妙な討論がはじまる。

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