2007/09/21

「ガルガンチュワとパンタグリュエル」を読んでみる その55


[前回…]

 いまの私にはたいへんタイムリーで面白い、プレイ日記を見つけた。
 “DQ2をやってみる”「ca et la」より)

 この方はまったくの初めてではなかったようだけど、やはりロンダルキアへの洞窟では苦労したらしく、手描きのメモが涙を誘う(→「24」)。


 復帰。
 パリに滞在することになったパンタグリュエルは、熱心に勉強する。ガルガンチュワも、長い手紙をしたためて、ギリシヤ語、ヘブライ語、ラテン語にはじまる語学、自然科学、医学、とにかくあらゆる学問をするようはっぱをかける。とはいえ《賢者ソロモンの言えるがごとく、叡智は邪なる霊魂の裡[うち]に断じて宿るものにあらず、良心なき智識は霊魂の荒廃に外ならざれば、――そなたとしては、神に仕え、これを敬愛し、これを畏れ、何ごとにつけても神を念じ奉り》云々かんぬんと、念を押すことも忘れない。立派な父親だ。いまはもう500歳を越えているらしいけど、自分も若いころは猛烈に勉強したのを思い出したのかもしれない(→その21)。しかし手紙の文面は立派すぎて、いささか読みにくい。ぜんぶ「候文」ふうに訳してある。学識があるのもよしあしだ、という感想は、この手紙に対してだけでなく、次に登場するあたらしい男にもあてはまる。

 ある日、パンタグリュエルがお伴を連れてパリ市外を歩いていると、向こうからひとりの男がやってきた。
《この男は、押し出しも立派で体格好も優雅だったが、諸所ほうぼうに哀れにも手傷を負い、帯しろ解けといった風体なので、犬の群にでも襲われて逃げてきたのか、さもなくば、ペルシュ地方のおんぼろ姿の林檎摘み人足そっくりだ、と申してもよいように思われた。》第9章 pp72-3

 そこでパンタグリュエルは親切に声をかけるのだが、男の返事はこんなだった。
《Junker, Gott geb euch Glück unnd hail. Zuvor, lieber Juncker, ich las euch wissen, das da ihr mich von fragt, ist ein arm unnd erbarmglich Ding, unnd wer vil darvon zu sagen, welches euch verdruslich zu hoeren, unnd mir zu erzelen wer, wievol die Poeten unnd Orators vorzeiten haben gesagt in iren Sprüchen unnd Sententzen, das die Godechtnus des Ellends unnd Armuot vorlangs erlitten ist ain grosser Lust.》pp73-4

 ドイツ語だ。それではわかんないから、われわれにもわかる言葉で答えてくれよ、と要求すると、今度はまた別の外国語で返事がかえってくる。それではわかんないから…… という繰り返しがえんえん続き、相手の男の口から出るのは、イタリヤ語、スコットランド語、バスク語、オランダ語、イスパニヤ語、デンマーク語、ヘブライ語、古代ギリシヤ語、そしてラテン語。
(ご丁寧なことに、これらの答えはひとつひとつ原文で紹介され、そのそれぞれに、ちがった訛りのついた訳文が並べられている。さらには、ラブレーの作った架空言語にも訳文がついている
 噛み合わない、長い問答の末にパンタグリュエルは音をあげた。
《――これはどうも、(とパンタグリュエルは言った、)そなたはフランス語をしゃべられぬのかな?
 ――殿、幸いにしてよく語れまするが。(と相手の男は言った。)フランス語こそ、生れながら心得ましたる母なる言葉でございます。》p84

 こういう男をこそパンタグリュエルは殴るべきだと思うが、なぜかこのときは辛抱強く、それどころかこの男に惚れこんでしまう。で、使われる言葉こそバリエーションに富んではいても、男が言いたかったのは単純で、「ものすごく空腹なんで、食べ物と飲み物をください」ということだった。パンタグリュエルは喜んで男を宿まで連れ帰り、たらふく料理を与える。この男の名はパニュルジュといった。

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