2006/09/16

「群像」2006年10月号


「群像」の10月号は“創刊六十周年記念号”でやたらと厚かった。特集で短篇が46作も載っているので買ってみた。

 もともと好きな作家のものからはじめて、興味はあるのに未読だった人、名前も知らなかった人まで取り混ぜてぜんぶ読んでみようと思いつつ、まだ半分以上残っている。川上弘美や堀江敏幸は安定してるなあとか、古井由吉はすげえやとか、リービ英雄はあんまりリービ英雄すぎて読みにくいとか、これが絲山秋子の意地の悪さか、とか、いろんな感想が浮かんでは消える。
 とびとびに読んでるが、掲載は作者名の50音順なので、青山真治(1964年生れ)の次に阿川弘之(1920年生れ)が来たりする。笙野頼子と瀬戸内寂聴が並んでいたり、意外とアナーキーだ、50音順って。
 はじめて読んだ吉村萬壱の「イナセ一戸建て」は、作家志望の青年が、近くに引っ越してきた憧れの小説家相手に妄想をふくらませる馬鹿話。青年と中年と老人が謎の三角関係に。何箇所か声を出して笑う。
 あと読んだなかでは、町田康「ホワイトハッピー・ご覧のスポン」が楽しい。私はこの人の短篇集は読んでいないのでよくわかんないんだが、主人公兼語り手はいつもの生真面目なダメ野郎、なのにポジティブ、という設定はほかにもあるんだろうか?
《すべてとすべてとすべてに感謝。自分のすごさを常に忘れないこと。そして感謝すること。喜びの針の穴にチューニングをあわせろ。袷の季節。泡おどり。
 みんなで、ラララ、居酒屋に、ラララ、転がっていくんだ、ラララ。糞のように、風のように、アララララ。つくだに。
 居酒屋へ向かう途中そんな言葉が頭に浮かんだのでメモをした。
 メモをしていたため少し遅れていくともうみんな、半個室のような板敷きに座っていて跪く店員に料理や酒を注文していた。》

 「メモをしていたため少し遅れていくと」て。

 それから妙におかしかったのが、松浦寿輝の「地下」。
 無期懲役の判決を受けて刑務所に入っていた男が27年経って仮出獄、その後の静かな生活が描かれる。収監前は名士で充分な稼ぎがあったらしいこの男は、暮らしには困らない。ひとりでひっそりと日々をすごすうち、地下室の改造を思いつく。ホテルのバーのようなカウンターをしつらえ、骨董家具屋から英国製のテーブルと椅子を買ってきて並べる。美大の学生に依頼して作ってもらった人間の彫像を配置し、録音してきた街のざわめきをスピーカーから流し満足。そのうち外国の喧騒を流すのも「悪くあるまい」と考える。
 このような過程がただ淡々と綴られてオチもない、地味で変な話だが、ところどころで太宰治に複雑な感情を抱いたり、苦い気持で武士道のことを考えたり、首のうしろの傷跡をなでさすったりするこの男の名前は、短篇の書き出しにはっきり「平岡」と記されていて、その後も「平岡」「平岡」と連発される。これはあきらかに“徹頭徹尾、真面目くさった顔で冗談をいう”芸だろう。一発ネタである。市ヶ谷の方向に合掌。

 で、結局、気になる作家のものしか読んでいないのだった。



群像 2006年 10月号 [雑誌]群像 2006年 10月号 [雑誌]
(2006/09/07)
不明

商品詳細を見る

コメント

非公開コメント