2006/09/09

「ガルガンチュワとパンタグリュエル」を読んでみる  その43


[前回…]

 ピンチョンの新作についてWeb上で飛び交う推測や議論を追いかけるのはもうとっくにあきらめているが、さっき思い立って調べに行くと、amazon本店でカバーを見ることができるようになっていた(クリックで拡大)。ああ、早く訳されないかな。

 ガルガンチュワの戦争には万全のアフターケアがついてくる。第50章。打ち破ったレルネの敗残兵を前にして、ガルガンチュワは語り出す。
《惟[おも]うに連綿たる当家歴代の祖先父祖たちは、数々の合戦を終えた後に、その武勲と勝利とを永遠に記し止めるために、政略した国々に堂碑を建立いたすことよりも、洽[あまね]く寛仁を施すことによって、敗れた人々の胸のうちに戦捷標・記念碑を打ち建てるを本旨念願とし給うた。なぜかと申すに、凱旋門、記念柱、金字塔などに刻まれ、風雨に冒されやすく、また世人の羨望を唆るような物言わぬ記銘文よりも、仁慈の徳によって心服せしめた人々の生々とした記憶のほうを、はるかに尊しとされたからだ。》p223

 さすが巨人国の王子、格調高い。一人称を「余」にして話す彼の姿を見たら、幼いときに世話をしたあの侍女たちも鼻が高いだろう。
《余としても、祖先伝来の寛仁の徳に些かも悖るまいと念願するから、今、諸君の過誤を赦免し諸君を解放して、元通りの束縛なき自由の身に返すことにする。更に、諸君が城門を出るに際して、各自に三カ月分の手当てを支給いたすが、これは、故里家庭へ落ちつくための費用に当てられたい。また、我が楯持士[たてもち]アレクサンドルの引率する六百名の武士及び八千の歩卒をして諸君を安全に護送せしめるが、これは、農民たちから危害を蒙らないようにするためである。神の御加護のあらむことを祈る!》p226

 農民テラコワス。神の御加護まで要るのかと。それからガルガンチュワは、戦争の原因を作った数人にだけ労役を課すと、あとは戦死者を葬って、負傷者を病院に送り、町の損害を償ってから、諸国連合軍を解散する。いちいち行き届いている。これなら開戦前になんとかできたんじゃないかと思う。
 ガルガンチュワは、とくべつ活躍した何人かの武将を連れて自国に凱旋した。宴会ののち、彼らには大金を配るだけでなく、ひとりひとりに領地を与えた。このごほうびにあずかれるのは、ポノクラートやジムナスト、ユーデモンといった、これまでにも活躍していた人物であり、かと思えば、ここではじめて名前を書かれ登場する人間も何名かいる。こういういい加減さを私は支持したい。
 さてしかし、まだ名前の出てこない功労者がいた。ジャン修道士である。

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