趣味は引用
「ガルガンチュワとパンタグリュエル」を読んでみる  その28

[前回…]

 ガルガンチュワは何をしているのか。
 と唐突に書き出してみたが、サボっているうちに話の状況を忘れかけている。ふつう、本を読んでいる途中で2週間も3週間も中断してしまったら、あきらめるか、あたまから読み直すしかないが、私がここで日記をつけていたのは、こういう不都合に備えてだったのだ、ということにした。

 それでおさらいしてみると、ガルガンチュワの留守中に、祖国「乾喉国」は、隣国レルネの軍隊に攻め込まれる。敵の大将はピクロコル王。乾喉国の人びとは、(ジャン修道士を例外として)さんざんひどいめにあわされる。交渉は決裂。この事態を受けて、ガルガンチュワ一行はひそかにパリから帰る。しかしそこでまずクローズアップされるのは、ジムナストなる家臣の変態的な活躍であって、主人公たる王子ガルガンチュワの言動はあんまり描かれていないのである。父からの手紙を受け取る→大急ぎでパリを発ち戻ってくる、というこの数ページのあいだには、これこれこういうことがあった、という説明だけで、ガルガンチュワの口にした台詞のひとつも書かれていない。そこで冒頭の疑問に戻る。
 いったい、ガルガンチュワは何をしているのか。

 ところが、第36章から読むのを再開してみると、この巨人がいよいよ行動を起こす。それは、ジムナストが偵察から戻り、敵軍は「強盗追剥山賊の類にすぎない」と告げたあとだった。
《するとガルガンチュワは、前に記した通りの面々を従えて、その大牝馬に跨り、途上に一本の丈高い逞しい立木を見つけたので、(これは普通一般には聖マルタンの樹と呼ばれているもので、その昔聖マルタンが、この地に立てた法杖と信ぜられているからである。)こう言った。「願ったり適ったりのものがあるぞ。この樹は、わしの法杖にもなれば槍の代りも相勤めるぞ」と。》p171

 なんだか不穏な出陣である。一応、あくまで「乾喉国=善/レルネ=悪」という前提があり、そのうえで、線引きを無化するような乾喉国側の戦いっぷり(ジャン修道士、ジムナスト)が描かれてきたわけだが、いまの引用部にあるガルガンチュワの台詞、「槍の代りも相勤めるぞ」には、巨人なぶんだけ、スケールの大きい虐殺を予感させる雰囲気がある。いや、面白いからいいんだけど、というか、主人公ガルガンチュワの戦いぶりを私は期待してさえいるのだが。
 ──などと考えている場合ではなかったのかもしれない。
《その間に、ガルガンチュワの牝馬は、腹の重荷をおろすために放尿をしたが、さて何しろ、それが大変な量だったので、七里にも及ぶ洪水となり、尿はヴェードの浅瀬めがけて流れくだり、川の流れと合して大氾濫となってしまったので、そこに控えていた敵の全部隊は、左手の丘陵へ逃れた者どもは別として、大恐慌のうちに溺死を遂げてしまった。》

 もうはじまっているのだ、虐殺は。

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