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「ガルガンチュワとパンタグリュエル」を読んでみる  その26

[前回分…]

 取り付く島もないピクロコルの返事をもって、ガレはグラングゥジエのところに帰る。そこで彼らは彼らで事情を調査して、自国の羊飼いとピクロコルの国の小麦煎餅売りとのあいだで起きたトラブルが原因だったと知る。でもはじめに手を出したのは先方のようだし、煎餅の代金も払ってある。よって、こっちに非はない。だが心の広いグラングゥジエはこう考えた。
《──たかが何枚かの小麦煎餅だけの問題ならば、向うの得心の行くようにしてやることにしよう。戦端を開くなどということは、気に染まぬこと、この上もない。》第32章 p154

 おわびのしるしに最上の材料を用いた小麦煎餅を山ほど作り、そればかりか「フィリップス金貨を七十万と三枚」給与して、怪我をした煎餅売りには土地まで与えることに決めた。これらの贈物を持って、再びガレがピクロコルのもとを訪れる。
《──おしゃべりは無用じゃ! (とピクロコルは言った。)奴らの持参したものを没収せい。
 そこで、金も小麦煎餅も牛も馬も奪いとってしまい、一言も言わずに使者たちを追い返し、あまり側へは近づくな、そのわけは明日教えてつかわすから、との捨台詞だけであった。》pp156-7

 かように悪役の道を邁進するピクロコルには、やはりあくどい家臣が何人もおり、そろって進言していわく──
・まず全軍を二分して、一方はグラングゥジエの軍を襲撃、これを壊滅せしめて金銀財宝を奪いとる
→そのあいだに別動隊はフランス全土を侵略し、スペイン、ポルトガルまで侵攻、ジブラルタル海峡を渡ってモロッコ、アルジェリアまで手中に収める。海岸沿いにイタリアも攻め落として教皇を脅かし、その勢いでギリシャ半島まで足を延ばしてトルコもアラビアも支配する
→グラングゥジエ軍を破った隊は引き続きオランダもドイツも征服し(中略)
→ブリテン諸島を含めたヨーロッパ全土をわがものにする

 お前はなんだ、子供か、というような領土拡大の野心を吹き込まれてその気になったピクロコルは、今回の戦役の発端が小麦煎餅4、5ダースだったことなど絶対忘れているだろう。「虎穴に入り過ぐる時には虎子も失う」といったまともな意見には、もはや聞く耳も持たない。
《――いざいざかかれ、(とピクロコルは言った、)万事取り急ぎ用意いたせい。者ども続けい、わしを思ってくれる者どもは!》p164

 しかし、まさにちょうど同じ頃、父王グラングゥジエからの急を知らせる手紙をパリで受け取ったガルガンチュワは、即座に馬に飛び乗ると、故郷をさして出発したのだった。

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