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「ガルガンチュワとパンタグリュエル」を読んでみる  その19

[前回…]

 パリの地で、ガルガンチュワの再教育が始まる。教師役を務めるのは、「その16」でいちど名前の出てきた、お供の家臣ポノクラート。しかしその前に、これまでガルガンチュワがどのような生活をして頭をボケさせてきたかが念入りに語られる。
《それから彼は、寝床のなかでしばらくの間、動物精気をいやが上にも旺盛ならしめるために、飛んだり跳ねたり転げまわったりした。次いで、季節季節に従って服装を整えたが、狐皮つきの毛ば立った荒目毛織布のだぶだぶした長い長衣を好んで着た。》第21章

 ゆっくり朝寝して、起きれば満腹になるまで飯を食べる。あらゆる種類の排泄行為をする。書物には集中できず、昼飯を腹一杯詰め込み、葡萄酒をがぶ飲みして、さいころやかるたで遊び呆ける。昼寝のあとでちょっとだけ勉強したかと思うと、今度はたらふく夕飯を食べている。そんな毎日が詳細に描かれるので、ポノクラートから「忌まわしい暮らし方」と評されるのもむべなるかな、と納得される。
 面白いのは、ガルガンチュワの生活じたいは怠惰で無為でいい加減なのに、それを説明する語り手の筆致は徹底的に律儀で事細かく、丁寧というより偏執的になっている点だ。ここには何かしらの倒錯がある。
 素朴に考えてみよう。説明や描写をしないことには、ガルガンチュワがどれほど自堕落に過ごしてきたかを語れない。何事かを書こうとする意志は、本来的に勤勉なものであり、怠惰・無為とは正反対を向いている。だから“怠け者を書く”という局面においては、書く側(律義者)/書かれる側(怠け者)が乖離する、としていいはずである。怠惰であることを描こうとしても、熱心になるほど怠惰から遠ざかる、はずである。
 ところが、この語り手はいつでも“説明しすぎる”。こんなに書いてしまったら、勤勉を通り越して狂気の沙汰じゃないかとあやぶまれるほどに(いや、たしかにどうかしてるよと確信されるほどに)、書いてしまう。何でもかんでも書く、できるかぎり書き尽くそうとする、その姿勢から、「こんなくだらないことを、微に入り細にうがち書いている」というおかしさが発生する。筆致の饒舌と対象の自堕落が、「無茶苦茶だ」という一点で合致するのだ。
《そして、彼は、腎臓を爽やかにするために、白葡萄酒を恐ろしいほどがぶがぶ飲んだ。それがすむと、季節季節に適ったお好みの料理を食べ、それから、お腹が張り切った時に喰うのをやめるのだった。
 酒を飲むことにかけては、終末[おわり]も規則[おきまり]も一向になかった。と申すわけは、ガルガンチュワの説に従えば、酒を飲む場合には、酒びたしになった上靴のコルク底が半尺くらいも膨れあがった時に甫めて[はじめて]飲酒の限界と極限があるというのである。》(同)

 どんなにしょうもないことでも、わざわざ書かれているからには、それは書かれるべき価値をもつ何事かであった。そう錯覚させることが、無駄な饒舌の功徳ではないかと思う。あるいはこう言えるかもしれない。くどくどくどくど書かれることで、ここでは、怠惰極まりないガルガンチュワの生活が、祝福されている。

 しかしこんな理屈は、実際に行われている描写の迫力の前では、およそどうでもいいのだった。たとえば第22章、「ガルガンチュワの遊戯」と題された一章でえんえんと列挙されるのは、かるた・さいころ・将棋・碁盤を用いてガルガンチュワがした遊びの数々の、名前だけである。その部分を以下にまるごと書き写す。どんな遊びなのか名前からでは推測できないという点ではどれも大同小異だが、「いくらなんでもそれは」と思われたネーミングだけ太字にしてみた。
《同色揃え、 四枚合わせ、 諸手取り、 奪い合い、 大勝利、 ラ・ピカルディー、 百点稼ぎ、 合戦、 乞食、 盗賊、 十点越し、 三十一、 揃いと続き、 三百点、 素寒貧、 宣言、 札めくり、 貧乏暇なし、 ランスクネ、 無一物、 話し合い、 続き札、 結婚、 一揃い、 拷問、 変り親、 色集め、 イスパニヤ加留多、 イタリヤ加留多、 大馬鹿三太郎、 当てはずれ、 責め苦、 父子代々、 幸運、 絵札揃え。
 指当て、 西洋将棋、 狐と牝鶏、 十字将棋、 白馬黒馬、 白駒、 点取り骰子、 三つ骰子、 戦争将棋、 よいとこどっこい、 ひっかけ、 女王、 スバラリノ、 進めや進め、 四隅積み、 打ち倒し、 神も仏もあるものかい、 相対死、 西洋碁、 ぶうぶう、 一番二番。
 短刀当て、 鍵投げ、 命中ごっこ、 丁か半か、 裏か表か、 小石遊び、 おはじき、 球打ち、 靴探し、 ふくろうごっこ、 兎狩り、 百足あそび、 小豚追い、 鵲[かささぎ]跳び、 角あそび、 飾り牛ごっこ、 鳥啼きあそび、 にらめっこ、 くすぐりっこ、 蹄鉄替え、 はいしい・はいしい、 走れよ子馬、 俺は坐った、 黄金髭あそび、 うらなりごっこ、 串抜き、 市あそび、 袋借り、 山羊だま打ち、 球当て、 マルセイユ無花果[いちじく]、 蠅追い、 盗賊退治、 狐の皮はぎ、 橇あそび、 脚相撲、 燕麦売り、 火吹きあそび、 かくれんぼ、 急ぎ裁判は死に裁判、 火箸抜き、 にせ百姓、 鶉あそび、 せむしごっこ、 みつかった上人、 つまみごっこ、 逆立ち、 尻蹴り、 トリオリ踊り、 輪飛び、 穴入れ、 ぎったんばったん腹合わせ、 桝あそび、 棒乗せ、 石蹴り、 受け取りごっこ、 火消しごっこ、 九柱戯、 棒倒し、 曲り球、 矢送り、 ローマ送り、 アンジュナール、 球なげ、 羽子突き、 鬼の居ない間に、 壺破り、 腕前しだい、 棒飛ばし、 杖あそび、 棒引き、 棒投げ、 行方不明、 棒送り、 針占い、 鼬ごっこ、 追い球、 城攻め、 列破り、 笑窪入れ、 独楽まわし、 喇叭独楽、 坊主独楽、 雷あそび、 びっくり仰天、 木の球取り、 梭[おさ]あそび、 尻ぺたたたき、 箒あそび、 コーム上人拝みまする、 鳶色油虫、 つかまえるぞ、 あばよ四旬節、 逆木あそび、 馬乗り、 狼行列、 組み打ち転げ、 槍取り、 枝ぶらんこ、 十三番目、 白樺あそび、 蠅叩き、 牛はもうもう、 伝令ごっこ、 蜂が刺した、 気違い、 橋くぐり、 目かくし鬼、 烏の石蹶り、 球飛ばし、 鬼ごっこ、 里あて、 間者ごっこ、蟇あそび、 球ころがし、 押しくら饅頭、 けん玉、 王様女王様、 商売当て、 左か右か、 種あそび、 お陀仏、 鼻叩き、 奥様の帽子洗い、 篩[ふるい]ふり、 麦蒔き、 大喰い、 風車、 ずいずいずころがし、 ぐるぐるめぐり、 狸釣り、 農夫ごっこ、 木兎あそび、 間抜けぼけ助、 逆様おんぶ、 梯子のぼり、 死んだ仔豚、 おけつの塩漬、 鳩が飛んだ、 三番目、 焚火飛び、 草叢飛び、 挟み鬼、 もういいかい、 財布はぶらぶら、 宝探し、 うしうし、 べっかんこう、 ぼ・ぼ・ば・ば・ば、 辛子つぶし、 あんよに注意、 またがっくり、 弓矢撃ち、 木馬あそび、 烏あそび、 凧あげ、 ちんちんもがもが、 首斬り、 鼻つまみ、 雲雀鳴き、 鼻弾き。》pp110-2

 計、217種類。

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