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赤レンガ倉庫への道はどちらか?
 5月27日(土)の夕方、「モーターサイクル・ドン・キホーテ」を見に横浜まで行ってきた。宮沢章夫の主催する、遊園地再生事業団の公演。出演者は6人。

 なにより天気が悪かった。JR桜木町駅を出てから会場の赤レンガ倉庫までは歩いて15分、ただでさえけっこうな距離だというのに、私は近道のつもりでかえって遠回りをしていたらしく、余計に放浪して余分な不安を募らせる始末。雨は強くはないもののずっと風が吹いていて、脚ばかりかおなかまでぐっしょり濡れた。スニーカーのなかは水たまり状態、ちゃぷちゃぷ音がする。みなとみらいって言うんでしょうか、あの一帯の広さを、私はなめていた。天気がよければさぞかし気持のいいであろう敷地を歩きながら、赤レンガ倉庫が彼方に姿を現わすまで、もう帰りたいとくじけそうだった。遠くに巨大な観覧車が見えていた。

 演劇は不思議だった。【1】劇の成り立ちの複雑さと、【2】演じられ方の複雑さがあって、どちらも絡みあっている。
20060527【1】基本的には、バイク屋の店主を主人公に、年の離れた妻(再婚)、先妻とのあいだにできた娘、バイク屋で働いている青年、その客、といった日常っぽい枠がある。しかしその土台にはシェイクスピアの作とされる戯曲があるそうで、さらに、その戯曲自体が『ドン・キホーテ』の一挿話に基づいているらしい。会場でもらったパンフレットによれば、そこで扱われるのはふたつの三角関係だという。一方は、幼馴染である恋人との仲を主君に引き裂かれた騎士の話。もうひとつは、自分の妻の貞節を試すため友人に妻を誘惑させた男の話(*)。これらの話の構造が変形されてバイク屋の日常にかぶせられているのか、ふつうの家庭劇のように見える場面に突如、シェイクスピア劇のような男が乱入してきたりする。バイク屋店主の妻は元・役者であり、娘はこれから演劇をやろうとしている。

【2】そんなわけで、ここでいっぱつ安易な言い方をすれば、この劇は台本の段階でメタの上にもメタであるはずだ。だからこそ不思議で奇妙に感じたのは、それだけ位相のズレた世界を演じる俳優たちが、みんな等しく目の前の舞台に立っていることだった。ドン・キホーテ的にちょっと頭がまいっているバイク屋店主は、日常とそうでない場面のどちらも行き来するが、そんな設定がなくたって、どの登場人物も、たしかにそこにいるという点では同じである。見ている私としては、ふたつの場面を区別することはできない(だから、ほんとは「ふたつの場面」という書き方もできない)。「いま出てきた変な奴は主人公の妄想でした」というやり方もありだとは思うが、この劇はそうしていない。どの役だって生身の人間であるという素朴さをひっくり返して、すごく変な状態を作りだしているような。いや、それって演劇なら普通なのか。私はまた安易な言い方をしたのか(**)

 よくわからなくなってきたが、バイク屋がメインなだけに、舞台の上をバイクで走るシーンが何回かあった。俳優がエンジンを吹かすと、しばらくしてから客席にも排気ガスのにおいがかすかに漂う。どう説明すればいいのかいよいよ混乱してきた――私と同じ人間が6人だけ、舞台の上では(舞台の上だというだけで)フィクションを演じていることになっているのである。そっちの世界の排気ガスを、私が嗅いでいる。これはかなりおかしな状況なんじゃないのか。……もう素直に書こう。演劇ってどうやって見ればいいんだ。
《[…]小さな劇場のなかには、たった五十人しか客席がないところもあります。すると舞台はすぐ近くですし、劇場全体が小さな部屋のように閉じられています。そんな場所で、俳優と呼ばれる人が、舞台の上で、大きな声を上げたり、ばたんと床に倒れたりする。こんな怖い世界があるでしょうか。》宮沢章夫『演劇は道具だ』(P5)

 ちょうど私の席のうしろあたりにカメラが入っていて、そのうちテレビで放送されるらしい。ぜひとももう一度見てみたい。終演後も雨はやんでおらず、再びぐしょぐしょに濡れて帰った。

 ○ ○ ○

(*)家に帰ってから調べてみると、これらの話は『ドン・キホーテ』前篇の第24章あたりから始まって、第36章くらいまでえんえん尾を引いていた。ぜんぜん憶えていないんだからいやになってしまう。ついでに書けば、妻の貞節を疑って苦悩する男、といったら前回ちょっと触れた『行人』ともつながりかねない。これもまた偶然なんでしょうか。

(**)そして、宮沢章夫がこの演劇の台本を書けずに苦しむ様子や、稽古の日々を、私は「富士日記2」でこの1ヶ月以上毎日読んでいた。ますますおかしな状況だと思う。
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