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エリック・マコーマック『隠し部屋を査察して』(1987)
隠し部屋を査察して
増田まもる訳、東京創元社(2000)

 内的動機により今月中に読まないといけなかった本、その1。
 スコットランドに生まれ、大人になってからカナダに移住して小説を書いているという作家の短篇集。どちらのお国柄も私は知らないが、ここに収められた20篇はどれもこれも歪んでいる。

 表題作「隠し部屋を査察して」は、ある種の役人らしい「わたし」が民家の地下室に閉じ込められた罪人たちを査察して回る話。ディテールはこと細かく描写されながら、設定の説明はほとんどない。
 ほかにも、妻の死体を切り刻んで子供とペットの腹に埋めた医者の話や、炭鉱で起きたエレベーターの落下事故、舞台の上で行われる気色悪い見世物、異郷の島に伝わる性の儀式、人間の死に顔を撮り続けた写真家の生涯、といった話が続く。
 なかには誰も死なない話もあるものの(たしかあったと思う)、物理的にも比喩的にも、“人のからだをバラバラにする”エピソードが多かった。良く言えば悪趣味、悪く言っても悪趣味、そんな世界。それなのにふしぎと健康的な読後感で、たぶん作者はすごく人あたりがいいんじゃないかとまで想像されるのだから妙である。

「刈り跡」という短篇は、カナダのある町で突然、幅100メートル、深さ30メートルの溝が発生し、その範囲にある建物や人間を消し去る。溝は時速1600キロで西に進み、それの通った跡はきれいに消滅していく。ロッキー山脈から太平洋を経て日本→チベット→アラブの砂漠へと一本の線が走り、24時間後には地球をひとまわり。
 これはこの作家の代表作と目されているのか、私は以前、『positive 01 ポストモダン小説、ピンチョン以後の作家たち(書肆風の薔薇)というアンソロジーで読んだことがあった。この作品のなかに、マコーマックの作風を象徴するような部分があったので引用しようと思っていたら、巻末の「解説」でちゃんと指摘されている(でも書き写す)。
《それが〈刈り跡〉の特徴であった。京都でも見られたように、無数の人命が失われたにもかかわらず、あからさまな敵意をひきおこさないのである。それどころか、初期の理論家のなかには〈刈り跡〉の恩恵ということばを口にするものまであった。》p121

 5月の文庫化は、2003年頃からじわじわと始まった“変な短篇集”ブームの一環だと思う。このブームを私は指をくわえて見ているだけなので、本書がそういう流れのなかでどこらへんに位置づけられるのか、ほかの人の意見を聞きたい。私は「祭り」「トロツキーの一枚の写真」「町の長い一日」が気に入りました。
 最後に、スコットランドの宗教改革者ジョン・ノックスの奇行を描いた「海を渡ったノックス」から引用。少年時代の彼は、ネズミを豚に食わせる「悪ふざけ」からエスカレート、自分の妹をこっそり家畜小屋に置いて親には嘘をつく。
《両親がすでに自分の話をなかば信じこんでいるのがわかった。人間のこどもが幼い妹を豚の餌にしたりできるはずがない。そのとき少年は理解した。いままで不自然で変態的だと誤って思いこんでいた彼のすべての性癖は、正しく了解すれば、ほんとうは宗教的性質のしるしだったのである。そこで少年は、大きくなったらすぐに宗教改革者になろうと決心した。そして彼はなった。やがて両親とも彼の偉業をとても誇りにするようになった。ときにはふたりの瞳に懐疑的なきらめきがかすめるのを見ることもできたが。》p85

《そして彼はなった。》がすばらしいと思う。


ポストモダン小説、ピンチヨン以後の作家たち (ポジティヴ)ポストモダン小説、ピンチヨン以後の作家たち (ポジティヴ)
(1991/06)
斎藤 恵美子

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