趣味は引用
『世界は何回も消滅する』より

…以前

 先月後半に読んでいた、青山南編・訳『世界は何回も消滅する』からあとひとつ、ティム・オブライエン「死者を生かす物語」についてメモしておきたかった。

世界は何回も消滅する―同時代のアメリカ小説傑作集 1946年生まれのオブライエンは、ヴェトナム戦争と、その波をかぶった自分の世代について小説を書き続けている。長篇も書けば短篇も書くが、ぜんぶヴェトナムの話、らしい。で、それはたいてい、リアリスティックな実録ものではなく、想像力をめぐるものになる。
 なぜかというと、従軍体験をきっかけに小説を書きはじめたこの人の中では、別に小説家じゃなくてもするだろう「戦争について考える」という行為に必要な想像力の問題が、別に小説家じゃなくてもするだろう「物語をつくる」際に発動する想像力と結びつけて捉えられているからであるように見える。それは小説家ならではの考え方だと思う。

「死者を生かす物語」は、ティムという小説家が、9歳の時にあった出来事とヴェトナムでの体験を重ねて回想する、エッセイのふりをした小説というかたちをとる。

 この人は、こういう〈フィクショナルな回想〉をよく使う。
 私がはじめて読んだのは、「レイニー河で」という短篇だった。高校の現国の教科書に載っていた。翻訳小説なんて授業では触れられもしなかったが、私は現国の教科書は買った日に一通り読むやつだったので何気なくこれも読んでしまい、高校生なりに思うところあって、その後の1年間、授業中に何回か読み返した。
 その「レイニー河で」も、中年とおぼしい語り手が、《この話だけはこれまで誰にも話したことがない》と言って回想を始める小説なのだった。
 語り手は、戦争に反対だった学生時代に徴兵通知をもらい、逃げるかどうかさんざん迷いながらカナダとの国境へ向かって・・・・・・と告白を続ける。
 これは短篇集『本当の戦争の話をしよう』(文春文庫)に入っているので、よければ本屋で立ち読みでもしていただきたい。「あいつはこんな話を何度も読んでいたのか。わかる気がする」と納得されるんじゃないかと思う。
 一言でいえば、〈人は自分以外のものにはなれない〉という話で、そんなのを高校生に読ませようとは、その出版社(どこだか忘れた)もずいぶん好き勝手したものである。

「死者を生かす物語」の話だった。

…続く

本当の戦争の話をしよう (文春文庫)本当の戦争の話をしよう (文春文庫)
(1998/02)
ティム・オブライエン、村上 春樹 他

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