2005/10/19

青山南編・訳『世界は何回も消滅する』(1990)

世界は何回も消滅する―同時代のアメリカ小説傑作集
筑摩書房

 アンソロジー。「同時代のアメリカ小説傑作集」ということで、主に70年代にデビューした作家が、それから10年くらいのあいだに書いた短編小説がほとんどを占める。あと数編のエッセイと、対談(フィリップ・ロス×ミラン・クンデラ!)。
 レイモンド・カーヴァーやコラゲッサン・ボイル、あとグレイス・ペイリー、ティム・オブライエンなど、そのご単独の本が青山南自身の手で、あるいは他の人によって翻訳刊行されている作家もいて、「村上春樹や柴田元幸が『面白い』と騒いで話題になる作家は、たいてい、何年も前に青山南がひっそり紹介している」の法則がまたも裏打ちされた。もちろん、はじめて見る名前もちらほらある。

 バリー・ハナ、という作家は、5年くらい前に出た『地獄のコウモリ軍団』なる馬鹿な短編集(でも新潮クレストブック)を読んだことがあるが、このアンソロジーにも作品が3編入っていて、どれも無茶苦茶。
「物食う妻と友人たち」という作品だと、いきなり、人びとは飢えている。説明はない。人がかんたんに人を殺し、また殺される。
《ひどい時代がほんとうに来ると、みんな家族を呼び集めて、たいがいは南部へ向かった。みんな、一族のなかでいちばん儲かってる奴のところへ、自分のささやかな財産を共同出資用にたずさえて、旅立った。おかげで離婚や対立はぐんと減った。土地持ちの親戚などいたら最高で、やあやあと顔を出すと、遊びしか知らない自分と家族を土地の番に立たせてくれと頼み、やわな手を出して土をつかんでながめた。
 お話にもならない無意味な殺人はもうない。殺人はどれも意味があって、食糧や水や種、あるいは汽車の切符が原因だ。》

 こんな文章に、別の言語で書かれた原文があって、それを書いた当人とは縁もゆかりもない赤の他人が、ただ「面白いから」というだけで自分の言葉に移し変え、その結果としてこれがここにこうある、みたいないきさつを思うと、なんだかつくづく「いいよなあ、それ」としみじみしてくる。こんな話なのに。
 いいのがあったらまた引用したい。