趣味は引用
05/09/13
「ユリイカ」9月号、特集*水木しげるなんてものを読んでしまったばっかりに、うちにあったちくま文庫の鬼太郎なんかをめくっている。
 しかしそんなミーハーであっても、古い漫画からこちらが勝手に読み取りがちな「しみじみ具合」を欠片も感じることができない。少なくとも読んでいるあいだは。どういうわけかと思う。鬼太郎の方が圧倒的に強いからことなきをえているだけで、ねずみ男、あれは毎回本気で鬼太郎を殺りにいっている。
 いま鬼太郎を読んで、30年だか40年だか前の初出のときに読んだ子供はおそらく笑わなかっただろうところのあちこちに私は笑うが、それは、時間がたったせいで作品のあり方がズレてきて、ギャグじゃないところもギャグに見えるから笑う、というのではない気がする。作品じたいは動かないというか、動く余地がない。話の展開もキャラの言動も、過度に即物的だからじゃないかと思う。悲観的でも否定的でもなく、ただ殺伐とした世界。
「猫娘とねずみ男」という短編では、例によって人間をだまし金を奪うねずみ男を鬼太郎がこらしめようとする。
鬼太郎はさっそくねずみ男のところへいった
道ばたに苦しんでいる者や死んでいる者さえいた

 鬼太郎は思う。
「相当あくらつなことをしているな」

 そのように落ち着き払った鬼太郎が本気で怒るのは、ねずみ男が巻きあげた金でたてた新居を見てからである。「さえいた」のはどうした。
「天邪鬼」という短編だと、「特攻隊でふたりのむすこを失い そのうえ空襲で妻をなくしてひとりぼっちになってしまった」じいさんが妖怪と組んで悪さをするのだが、最後のナレーションはこうである。
じいさんにいろいろ事情を聞いてみると
もとは善良なおじいさんだったということがわかった
国がひねくれさせていたのだ
鬼太郎はさっそく役所の人に事情を話し
りっぱな家をたててもらった
すると じいさんはもとの善良なおじいさんにかえったという……

「さら小僧」に出てくる妖怪さら小僧は、太った河童に似た姿ながらたいへん強かった。鬼太郎は珍しくねずみ男の協力を得て辛勝、子供に感謝されて去る。鬼太郎をたたえる「ゲゲゲの歌」が、林の中にこだました……
ね「苦戦だったなあ」
鬼「人生はどこまでも苦戦だよ」


 ゲッゲッ ゲゲのゲー。



ゲゲゲの鬼太郎 (1)
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