趣味は引用
05/08/28

 カユい話を始めたい。

 7月からこっち、週に5冊ずつ「ジョジョ」を読んでいる。ようやく40巻まできたところ(第4部前半)。飲み会の席でうっかり「最近ジョジョ読んでるんですよ」と口にしてみたら、ある人は突然「アリーデヴェルチ!」と言ってきたのだが、ごめんなさい、まだそこまでいっていないようです。
 ジョジョ話に興じる人たちは周囲にたくさんいたが、私はほとんど漫画を読まずに育ってしまった人間で、「何十という漫画を立ち読みで押さえてきたからそれぞれについて普通に話ができる、ジョジョもそのひとつ」みたいなあり方がうまく想像できない。その人にとってはそれが普通のことだと思うとなおさら不思議な気分になる。
 そんなコンプレックス(!)の裏返しが、「自分が読んだ途端、みんな読んでることを前提にしてはしゃぐ」カユさとしてこの文章を浸しているだろう。こうやって転化していく抑圧の構図が狭い世間をますます狭くしていく気もするが、何を書いているのかよくわからないので話を続ける。

 私とジョジョ。9才かそこらの時にいちど、歳の離れたいとこが集めていたのを譲ってくれる機会があった。どんな漫画なのかと手にとって開いてみたのが(今にして思えば)第4巻で、「変なシルクハットのおっさんが体に巻きつけられた鎖で上半身と下半身を真っ二つに切断される」見開きのシーンだったため、「これ、いらない」と突っ返してしまったのを憶えている。その夜はそこを夢に見た。わかりやすい子供だった。

 そんな私とちがって、高校以来の付き合いである友達Bなんかは、それこそ小学生の頃からずっとジョジョを読み続けてきた男であり、10年以上に渡って「ジョジョを読め、ジョジョを読め」と繰り返し勧めてくれたのだったが、なにしろ巻数が多すぎて手を出しかねた。話を聞くほどに、漫画喫茶で済ませられるようなものとは思えないし、それに私は漫画喫茶に行ったことがない。

 それが、この夏のはじめ、近くにある「ブックスーパーいとう」の棚で第1巻から63巻までがずらっと揃っているのを見つけたのだった。以来、「ああ、『読め』ってことだよな」と運命を受け入れる気持で毎週水曜日に「今週の5冊」を買い、ありがたく読み進めている。

 あのとき、あの場所で、あいつとあいつが言って笑っていたネタの元はこのコマだったのか、などと思い出を噛みしめながら巻を重ねていくのには、初読のくせにまるで半生を振り返るような趣きがある。
 人のジョジョ話が、実物を読んでいなかった私にそこまで強い印象を残していたのだからすごいことだとあらためて思う次第だが、一方で、どれほどカッコいいと思っても花京院を夢にまでは見ないのは、私も9才の子供ではないからだろう。人は成長する。
 毎週毎週、友達Bに電話して「今日は○巻まで読んだよ」と伝えると、「○巻なら△△が□□したところだな」と常に正確に思い出して話に付き合ってくれるのだから、まったく持つべきものは友達Bである。

「面白い、面白いよ」
「だからずっと言ってたのにお前ってやつはよう」
「こんなに面白いジョジョが、どうしておれでも読んでたドラゴンボールくらいメジャーにはならなかったんだろう」
「メジャーだから。お前以外は読んでたから」
「やはりか」
「でもまあ、『はじめてジョジョを読んでいる』というのはある意味うらやましくもある」
「救われる思いです」
「あの頃おれたちは――」

 そうやって、たとえば、1992年にスタートした第4部の舞台が近未来の1999年に設定されており、冒頭、ナレーションがノストラダムスの「恐怖の大王」に触れていることから、リアルタイムのジョジョ読者はみんな「こりゃカーズ様が降ってくるに違いない」とおそれおののいたものだった――などという歴史的な証言を小耳にはさみつつ繰り返しページをめくっているうちに、2005年の夏は過ぎ行こうとしている。今年も海に行かなかった。

「誰でもどこか特定の世代に生まれるわけで、である以上、読まないといけないものはある。次はスラムダンクを読むように」
「でも、あなたがジャンプのほかに読んでたのは永井豪と水木しげるでしょう。世代とか持ち出すか」
「それとこれとは別なんだよ」
「むー」
「ああ、世代ってコトバで思い出した」

 そう言って彼の教えてくれたのが、以下のコピペ文である。
> 「マリオ2をやる前に言っておくッ!
> おれは今このゲームをほんのちょっぴりだが体験した
> い・・いや・・・体験したというよりはまったく理解を超えていたのだが・・・
> あ・・・ありのまま 今起こった事を話すぜ!
> 『おれは スーパーキノコを取ったと思っていたら 死んでいた。』
> な・・・何を言っているのかわからねーと思うが
> おれも何が起こったかわからなかった・・・
> 頭がどうにかなりそうだった・・・
> バグだとかクリボーと見間違えただとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ
> もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ・・・」

 刹那的なネタかもしれないが、その刹那は意外と長い気がする、と思うのは、なんだかんだ言って私もその世代に含まれているからだろうか。

「ところでイギーの顔なんだが」
「触れるな」



JOJO A-GO!GO!JOJO A-GO!GO!
(2000/02)
荒木 飛呂彦

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