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2005/03/24

「エターナル・サンシャイン」(2004)

ミシェル・ゴンドリー監督

 私は知らなかった。この映画は「切ないラブストーリー」として宣伝されていた。そうか。そう見ることもできたかもしれない。

 主人公ジョエルとその恋人クレメンタインが破局を迎える。ジョエルは速攻で後悔し、よりを戻そうとするが、それ以上に行動の早いクレメンタインは特殊な会社の提供する特殊な手術で彼についての記憶をすべて消去していた。事情を知ったジョエルは悲しみのあまり、自分の頭からも彼女の記憶を削除するよう同じ会社に依頼する。
 問題の手術の手順は単純明解だ。依頼者と技師は、あらかじめ綿密な面談によって消したい記憶のある場所を脳内に探し、「記憶図」を作成しておく。それから一晩、依頼者が自宅で眠っているあいだに、技師は機具を用いて記憶図の範囲内を削除する。朝が来て目を覚ました依頼者は、自分が手術を頼んだことさえ忘れている。おしまい。

 しかし手術が始まって、昏睡状態の意識の中、クレメンタインと一緒だった記憶が次々に消えてゆくのを目の当たりにしたジョエルは、やっぱり彼女(の思い出)を失いたくないと願い、手術が完遂されるのを阻もうとする。
 でもどうやって?
 記憶図の外に彼女(の思い出)を連れ出す=彼女と出遭うより前の記憶の中に彼女(の思い出)を逃がすことによって、である。
 はたしてこの抵抗は成功するのか――

 映画がここまで進んだあたりで猛烈に気になった。
 これは村上春樹の『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』にインスパイアされたんじゃないか。
 十数年前に英訳もされたあの小説は、特殊な脳手術を施された主人公の意識が暴走し、本人の自覚のないまま脳内の一部に籠城しようとする話だった。
 とはいえそれはどうでもいい。私には似たようなテーマを扱っているように見えただけである。けれどもそう見てしまった以上、興味の焦点も似たものになった。一言でいえばこうなる。脳内と現実はどのように関係するのか? よくある話ではある。

 映画は相当に時系列を組み替えて進行する。
 最初のうち混乱するものの、眠ったりさえしなければちゃんと呑み込めるよう親切に構成されている。だからそのうち完璧に辻褄が合うだろうと予想できて、それがまた不安にも変わる。
 というのは、映画が破綻なく完成することをもって、すべてがジョエルの脳内で完結するのを「いいこと」であるかのように見せてしまう予兆を感じてしまうからだ。
(『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』のある登場人物は、主人公の意識が完全に肉体と接続を断つことで生まれる精神のひきこもり状態を「不死」と呼ぶ。しかし主人公自身は、そんなもの全然ほしくない。彼にとってそれは外部と隔絶された「世界の終り」だからだ)

 ジョエルと、ジョエルの脳内に生きるクレメンタイン(の思い出)が、思惑通りに記憶図の外へ脱走できたとしても、それだけでは現実の2人に影響を与えることはありえないはずだ。たしかに一緒にいた日々は永遠のものになるだろう。でもそれをエターナルなサンシャインといってしまうのであれば、せっかく映画館まで足を運んだのに「部屋でネットでもしてろ」と言われて帰るようなものである。
「それはそれで歓迎すべき後ろ向き映画じゃないか」という声も頭の一部から聞こえてくるからこそ、そんな陰惨な終り方だったら喜ばずにがっかりしてみせようと私は自分に言い聞かせた。
 ――しかしながらこの映画は、そんな私の杞憂を越えて、前半でばらまいたピースをすべて拾ってからも、もう少し続くのである。

 ラストをどう受け取るかは人によって大きく違うだろう。私もしばらく考えてみたが、どう受け取ったとしても、上述の危惧が払拭されているのは間違いない。安心して振り返ってみれば、特定の記憶が消えていく様を映像化したシーンは見事だし、ジョエルとクレメンタインの2人以外の人間関係に盛り込まれたドラマにも見所がある(もしかするとそっちの方が……いや何でもない)。
 異様に凝っているくせに難解にならないこの脚本を書いたのは私が唯一名前を知っているチャーリー・カウフマンで、個人的には「マルコヴィッチの穴」よりずっといいと思った。「アダプテーション」と比べてどうかは、もう一度見てから考えたい。


落ちついて考えれば、「村上春樹もチャーリー・カウフマンも、P・K・ディックあたりから影響を受けた」と考えるのが妥当だと思う。


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