2005/02/03

ヴォネガットのこと その3


「真面目に書こうとしたって書けやしない」。
 そんな態度は、『猫のゆりかご』で、人びとの幻想をあくまで幻想として見つめるクールな筆致として発現していた。世界中の水を常温で氷にしてしまう新物質という、無邪気な科学者の無邪気な発明であっさり終焉を迎えた人類の姿は、絶望的というよりコミカルに描かれている。

 コミカルに描くしかなかった、と言っていいのかもしれない。真面目・絶望的に書いたら嘘になる、だったらはじめから嘘として書いてしまおう――「猫のゆりかご cat's cradle」とは英語で「あやとり」の意味で、あやとりをする人は複雑に絡み合わされたヒモに動物や建造物の姿を見る。しかし、どんなに複雑でも実はそこにはヒモしかない、とする視線がこの作品を貫いている。おそらくヴォネガットにとっては、小説で何か本当のことが書ける、と信じるのも幻想だったのだ。
 たとえば人間の愚かしさを嘆くなど、率直な意見を表明しながら、自分の書いているそのことからも距離を取る上述のスタンスは、架空の世界を扱う『猫のゆりかご』をすみずみまで統制のとれた傑作にする一方で、現実としてあった戦争を書くのをいっそう難しくした。

 1922年生まれのヴォネガットは第二次世界大戦に一歩兵として従軍し、ドイツ軍の捕虜となった。収容先の都市ドレスデンは、1945年2月13日、連合国軍の激しい空襲に見舞われる。食肉工場(スローターハウス)の地下室に避難した捕虜たちが翌朝外へ出てみると、街は灰になっていた。
 味方が行った無差別爆撃を、敵軍の捕虜として受ける。この体験を『スローターハウス5』として作品に組み入れるまでに、ヴォネガットは24年の年月を要した。


 おかしい。『チャンピオンたちの朝食』から引用するだけのはずだったのに。